イップスを乗り越えて――谷繁監督も絶賛した桂の〝復肩〟
ドラゴンズの喫緊の課題は正捕手の育成である。小田らが抜ける来季、谷繁選手兼任監督のレギュラーの座を脅かすような新星の台頭が期待される。ぜひ、プロ野球ファンに、「桂依央利」という選手に注目してもらいたい。
2014/11/27
ピッチャーに返球ができない!?
だが現実は厳しい。
シーズン当初から2軍で捕手として出場した桂だったが、明らかに様子がおかしかった。2塁への送球どころか、投手への返球すらままならなかったのだ。
桂からのボールは右へ、左へ、はたまた投手の頭上を越えていった。敵ファンからは心ないヤジが飛んだ。
これは、まさにイップスの症状そのものである。
イップスとは精神的な原因による運動障害のこと。当たり前にできていたことが、できなくなる症状だ。
悪いことは重なるもので、6月には2塁への送球がマウンド上にいた伊藤準規投手の右側頭部を直撃。
伊藤は血を流しながら退場した。
桂はもうダメなんじゃないか――。
そう思ったファンも少なくなかったのはないだろうか。
結局、桂の14年の一軍公式試合出場はゼロに終わっている。プロの壁はめちゃくちゃ厚かったのだ。
しかし、桂は苦難を乗り越えた。
圧巻だったのは11月11日に行われたBCリーグ選抜戦だ。
この日、スタメン捕手として出場した桂は1試合で3つの盗塁を刺し、トドメは最終回。伸び上がるような送球で2塁走者を牽制死させた。
それを見た谷繁監督は「俺の高3の頃のようだ」と冗談めかしながら絶賛。春季キャンプではキャッチボールの相手をまともに務められなかった桂に盛大なカミナリを落とした谷繁監督だったが、その成長ぶりを認めた形となった。
守備が良くなれば、打撃も良くなるのだろう。
土井臨時コーチも桂の打撃の向上にお墨付きを与えている。
もちろん、これで桂が正捕手になれるほど甘いものではない。キャッチング、スローイング、リードなど、課題は山ほどあるはずだ。そのあたりは達川光男バッテリーコーチがみっちりと鍛えているという。
先輩の松井雅、武山だって黙ってはいないだろう。
それにしたって桂が正捕手候補に名乗りを挙げるほどうれしいことはない。
なんだ、炭谷銀仁朗がFA宣言しなくても大丈夫だったじゃないの。
ファンがそんな風に思えるような活躍を、桂をはじめとした捕手陣にはぜひ見せてもらいたい。……あ、谷繁さんもね。