DeNA倉本、打撃開眼に隠された一大決心――己のこだわりを捨ててプロで生き残る
DeNAの6番を打つ倉本寿彦が好調をキープしている。昨年、大型新人として期待されながらも、不本意な成績に終わった倉本がいかにして打撃開眼を果たしたのか。
2016/06/01
光明が差した昨季の9、10月のフォーム改造
「ミート中心にして、打率を上げていく」
昨シーズン終盤の9~10月、倉本は大胆なフォーム改造に着手する。クローズド気味だったスタンスをスクエアに変え、右足の引き上げを小さくした。すると9~10月の打率(45打席)だけを見ると.267と向上した。来期へつながる光明――前半が勝負だとオフシーズンも倉本の試行錯誤は続いた。
「ラミレス監督になってオープンスタンスにも挑戦したんですけどしっくりこなくて、キャンプのとき昨シーズン後半の打ち方に戻したんです。そこから少しずつ変化はしていますが、ベースを変えることなくここまできています」
今シーズン、体のひねりを使った一本足打法は完全に変貌を遂げた。右足はつま先を軽く振り上げタイミングを計る振り子となり、左肘を高い位置でキープし体が開かないよう素早く折りたたむことで切れのあるインサイドアウトのスイングを実現した。現在バットは900グラム程度のコントロールしやすい物を使用している。
「狙ってファールが打てて、ボールをさばけるような感じですね」
試合前のシートバッティングで、倉本がセンター方向からレフトへと丁寧にボールを打っている姿は印象的だ。
「そこはすごく意識していますね。去年は引っ張りばかりだったので……。逆方向の凡打のほうが内容があると自分に言い聞かせてやっています」
交流戦前までの倉本の打率は.309。50試合で58本のヒットを打っているが、この数字はすでに去年のヒット数(102試合、51安打)を超えている。また興味深いのは、今シーズン本塁打はまだ出ていないが(昨年2本)、長打率は昨年の.249から.367と向上していることだ。
倉本にとって大事なのは言うまでもなくこれからだ。昨年は交流戦に入ると守備面でもミスが目立ちはじめファーム落ちを経験している。不動のバットマン、ショートストップとして本当の意味でチームメイトから信頼される存在になるためには、ここからが踏ん張りどころとなる。
「去年とは違い今年は体の状態がすごくいい。それがバッティング面や守備面に繋がっていると思うので、つづけて行きたいですね」
最後に倉本に問うた。
もう、バットを強く振ることはないのか?
しばしの沈黙後、倉本は答えた。
「強く振りたい、長打を打ちたいという気持ちはあります……」
間を置き、つづける。
「ただ長打を打つバッターは中軸にいます。どんなカタチであってもヒットを打つと気持ちが楽になるんですよ。だからより多くヒットを打つようにしたい」
倉本の「ヒットを打つと楽になる」という言葉は、結果重視の厳しい世界を生き抜く人間の嘘いつわりのない言葉だろう。そのためにプライドを捨てることのできた2年目の倉本に、プロとしての矜持を強く感じた。