DeNA戸柱、1年目から正捕手に定着できた理由――幸運だったラミレス新監督の方針
横浜DeNAベイスターズで正捕手の座を射止めた戸柱恭孝。球団初のクライマックスシリーズに向けて、後半戦もカギを握る選手の一人だ。
2016/07/16
向上心と素直さが成長へつながる
戸柱にとって幸運だったのは、インサイドワークと打撃面という、プロでの経験がものを言う要素が比較ポイントにならなかったことだ。配球はスコアラーが集めたデータに基づき、難しい局面ではベンチから指示するというラミレス監督の方針により、経験しながら学べるスタイルだったことで、自身の持ち味をアピールすることに専念できた。また、捕手にも打力を求められたなら、左打ちの戸柱にこれほど多くの出場機会は与えられなかったのではないか。
それに対して、キャッチング、スローイング、フィールディングは社会人を経ている分、ルーキーと言えども完成度は高い。実際、社会人時代にはプロのスカウトから「投手への返球は横着して座ったままではなく、一球ごとに立ち上がって投げなさい。二塁へのスローイングがシュート回転しても、プロの二遊間ならタッチでカバーしてくれる」といったアドバイスを受け、そうした部分に磨きをかけた。
そして、何より戸柱の成長を支えているのは、「うまくなりたい」という向上心と素直さだろう。プロ入り後はなぜかフライを捕れなくなり、落球してしまう無様な姿を何度か見せているが、毎日のように居残りでフライ捕球の練習を課されても、必死に取り組んでいる。
「バッティングもルーキーにしては頑張っていますが、オールスターに出る選手としては物足りない数字。戸柱には普段から容赦なく罵声を浴びせていますけど、できるようになろうという姿勢は強く感じられる。そうやって少しずつ、チームメイトの信頼も得られていますね」
打撃を指導する坪井智哉コーチも、戸柱の前向きさについてはそう高く評価している。
厳しいプロの世界では、心技にわたって「これだけは誰にも負けない」というプライドを持つことが大きな飛躍につながると言われる。だが、その一方では自信を持ってきた技術や考え方の修正を指摘されて心を閉ざし、すなわちプライドが邪魔をして成長できない若手選手も少なくない。
ドラフトで複数の球団からリストアップされ、ラミレス監督の横浜DeNAに指名されたのが運の強さなら、自分の弱点さえ曝け出して一から大成しようとしているのが戸柱の強みである。12球団で唯一クライマックスシリーズを経験していないチームで、ルーキーの司令塔が初進出に貢献できるか。その過程でどこまで成長するのか、ペナントレース後半も注目してみたい。