「盗塁阻止率」の高低でキャッチャーのよし悪しは語れない【里崎智也の里ズバッ! #05】
今季から野球解説者として各方面で活躍する里崎智也氏が、その経験に裏打ちされた自身の「捕手論」を語る好評連載。第5回のテーマは、捕手を語るうえでは欠かせない数字、「盗塁阻止率」について。高い阻止率=いい捕手という風潮に“キャッチャー里崎”が斬りこみます。
2015/06/14
Getty Images
盗塁の「企図」にキャッチャーの存在は無関係
「阻止率の高いキャッチャーの○○がいるから、相手は容易に走れない」
ふだんから熱心にプロ野球を観ているファンの方々なら、野球談義に華を咲かせる球場や居酒屋で、一度はそんなセリフを耳にしたことがあるはずだ。
確かに、キャッチャーとしては「盗塁阻止率」が高いに越したことはないし、その数字の高低には、キャッチャー自身の持つ資質やスキルレベルも大きく関わっていることは間違いない。
だが、経験者の立場から言わせてもらえば、相手が走るか否かに、キャッチャーの「阻止率の高さ」は関係ない。さらに言えば、そこで盗塁を阻止できるか否かの責任の比重は、6割方、ピッチャーにあるとさえ言ってもいいだろう。
なぜなら、キャッチャーの調子があきらかに悪そうな場合や、肩ヒジの故障などの情報を事前にキャッチしているといった例外的な状況を別にすれば、ベンチで作戦を練る首脳陣や、塁上のランナーが、実際の試合で見ているのは、マウンドにいるピッチャーのクイック(モーション)が速いか遅いかの、その一点。
キャッチャーが誰であれ、1軍の試合に出ている時点で、一定のスキルレベルはクリアしているという大前提がある以上、「今日のピッチャーはクイックがうまいから、走るのをやめよう」という判断が下ることはあっても、「今日のキャッチャーは肩が弱いから、バンバン走っていこう」とはならないのが、プロの世界でもあるわけだ。
こんなことを書くと、「自分の責任を棚にあげて、また里崎がピッチャーにケチをつけている」と思われる方もいるかもしれない。だが、これはあくまで客観的な事実を述べたまで。
手元にデータがないので、「絶対そうだ!」とも言いきれないが、同じピッチャーであれば、キャッチャーが違っても、「阻止率」はそこまで劇的には変わらない。
だが、その逆の場合がどうかと言えば──。DeNAの久保(康友)や、巨人の内海(哲也)や菅野(智之)、故障前の中日・浅尾(拓也)といったクイックのうまさに定評のある、言うなれば“企図さえしにくい”ピッチャーと、そうでないピッチャーとが、同じ捕手のもとで投げれば、その差は数字のうえでも、如実に表れてくることだろう。
とは言え、ここで僕が伝えたいのは、なにも「盗塁阻止は、全部ピッチャーの責任だ」なんていうことではまったくない。
ただ、どれほど絶妙なスローイングをしようと、捕球した時点ですでに「投げても完全にセーフ」のタイミングになっていることは多々あるし、1アウト一・三塁のような状況では、ベンチから「投げるな」のサインが出ることだってあるということ。
だからこそ僕は、そういったキャッチャーのスキルとは直接関係のないシチュエーションで許した盗塁までもが、すべて含まれている「阻止率」だけをとって、「阻止率が高い」=「いいキャッチャー」とする風潮には、あえて異を唱えたいと思うのだ。