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「盗塁阻止率」の高低でキャッチャーのよし悪しは語れない【里崎智也の里ズバッ! #05】

今季から野球解説者として各方面で活躍する里崎智也氏が、その経験に裏打ちされた自身の「捕手論」を語る好評連載。第5回のテーマは、捕手を語るうえでは欠かせない数字、「盗塁阻止率」について。高い阻止率=いい捕手という風潮に“キャッチャー里崎”が斬りこみます。

2015/06/14

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「盗塁阻止」の成否のカギはバッテリーの連携にある

 ちなみに、プロの世界では、「足が速い」とされるランナーがスタートを切ってセカンドに到達するまでに要する時間は、平均3.2秒。ピッチャーのクイックについては、キャッチャーのミットに収まるまでの一連の動作を、1.25秒以内に行うのが合格点とされている。

 となれば、僕らキャッチャーが、捕球してからセカンドにスローイングするまでに与えられた時間はわずか1.95秒。ランナーのスタートが抜群で、なおかつピッチャーのクイックが遅いときには、これがどんどん削られ、結果、「投げてもセーフ」という状況も頻発するというわけだ。
 
 もちろん、キャッチャー自身が、キャッチング、スローイングの技術を磨いていけば、その動作を多少は速くすることもできるだろう。
 
 だが、高低、内外のどこに来るかもわからないボールを、つねに受け身の体勢から捕球して投げるという動作は、どれだけ絶好のポジショニングで捕球できたとしても、1.8秒台がいいところ。走塁のスペシャリストとして名高い巨人の鈴木(尚広)や、クイックの速い前出の久保といった、ランナーやピッチャーが、自身の持てる技術で(しかも、自分のタイミングで!)コンマ何秒かを縮められるのとは、置かれた状況からして、まったく違うというのが現実だ。
 
 にもかかわらず、テレビ中継などでは、まるで「キャッチャーvsランナー」の構図であるかのように、決まってキャッチャーのスローイングだけがクローズアップされ、「盗塁阻止失敗=キャッチャーの責任」と映ってしまうのだから、キャッチャーとはホトホト損な役まわりである。
 
 結局のところ、「盗塁阻止」というものは、コンマ何秒の世界で繰りかえされる三者のせめぎあいのなかで、「盗塁を刺す」という意識を共有するバッテリーが互いに連携をし、なおかつカバーに入る野手がそれにしっかり呼応して、初めて成功するものでしかない。
 
 だとすれば、「阻止率」が低いことに対する責任は、キャッチャーひとりではなく、あくまでもバッテリーとそこに関係してくる野手たち全員が連帯して負うべきもの。
 
 どんなに肩が強かろうが、スローイングがうまかろうが、キャッチャーだけの力で「阻止率」を上げることは実質不可能である以上、それだけを取って、キャッチャーのよし悪しを評価することは、僕からすればナンセンスと言うほかない。
 
 そもそも、“企図され数”が「50」で、「阻止率」が3割のチームと、「阻止率」は4割でも、され数が「100」あるチームの、どちらがより「相手からナメられているか」と言えば、圧倒的に後者のほうなのだ。このコラムを読んでくれたみなさんには、「阻止率」と同時に、“企図され数”にもぜひ注目してもらいたいところだ。
 
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里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ。徳島県鳴門市。鳴門工(現・鳴門渦潮高)、帝京大学を経て、98年のドラフト会議で、千葉ロッテマリーンズを逆指名(2位)して、入団。03年に78試合ながら打率3割をマークし、レギュラー定着の足がかりをつくる。05年は橋本将との併用ながらも、日本一に貢献。06年にはWBC日本代表として世界一にも輝いた。また、大舞台にもめっぽう強く、05年プレーオフのソフトバンク戦で馬原孝浩(現・オリックス)から打った、日本シリーズ進出を決める値千金の決勝タイムリーや、故障明けのぶっつけ本番で臨んだ10年のCSファーストステージ・西武戦での、初戦9回同点タイムリー、長田秀一郎(現・DeNA)から放った2戦目9回同点弾をはじめ、持ち前の勝負強さで数々の名シーンを演出。00年代の千葉ロッテを牽引した〝歌って、踊って、打ちまくる〟エンターテイナーとして、ファンからも熱烈に支持された。

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