甲子園10年連続出場を目指す聖光学院(福島)。県内無敵の強豪が直面する苦しみ【2016年夏 注目校ルポ】
福島県伊達市にある聖光学院。2001年夏に甲子園初出場を果たすと、07年から15年にかけて、戦後最長となる9年連続夏の甲子園出場中だ。この夏は福島大会10連覇が懸かっている。「勝つことが当たり前」とされた中で、彼らは2016年の夏をどう乗り切ろうとしているのだろうか。
2016/07/08
高橋昌江
“3年生の夏”に甲子園に連れていきたい
結果に対する恐れや不安があるうちは、まだ勝負に対する覚悟が定まっていない。だから斎藤監督は美空ひばりの『柔』の最初の歌詞「勝つと思うな 思えば負けよ」を用いることがある。
今年のチームを斎藤監督は「純」だと表現する。近年、「受け売り」になっていたという合宿も「取り組みは歴代で1番じゃないか」と賛辞を送る。だからこそ、結果が付いてきてもいいのではないかと感じている。
そんな話を聞いていると、主将の松本康希がメニューを確認するため、斎藤監督のもとに来た。斎藤監督は松本に語りかけた。
「合宿を見て、お前たちは好んで追い込むことはしている。逃げは感じないんだよ。そこは買っている。ただ、(打線の中で)切れるヤツがいるよな。そういう選手がいると線にならず、点のままで終わってしまう。例えば、技術的なものもあるけど、たんぱら(短気)だからアウトコースのチェンジアップをファウルも打てずにあっけなく三振する。たんぱらなヤツが線にならないまま、点のまま存在していることがチームの一体感や組織力を奪っている原因になっているよな。でも、お前たちの能力をずっと見ていると、できないはずがないんだけど、何故、できないのか。そこは緩んでいるんじゃないか」
松本の鼻をすする音が響く。斎藤監督からはチームの弱い部分が挙げられ、それをカバーする言葉もあったが、「それをこいつらに言ったらダメ。そこに逃がしちゃいけないんだよ」とキャプテンである松本には本音を伝えた。松本のすすり泣きは大きくなる。
「選手の中からガツガツした強さを感じないな」と言うと、斎藤監督は立ち上がった。おそらく、この日はもう選手の前に立つ予定はなかったのだが、一塁ベンチ前で待つ選手たちのもとへ松本とともに向かった。
約20分後、戻ってきた斎藤監督は「泣いてばっかりなんだ、このチーム」と言った。斎藤監督は「たった1回の3年の夏に甲子園に連れて行きたい」と言い、夏の福島大会9連覇は、1回の優勝×9だと表現する。不安と闘い、負けては泣き、負けては泣きを繰り返してきたチームを見放すことはできなかったのだろう。
斎藤監督は帰り支度を始めた。靴を履きながら、「テーマは聖光学院10連覇への苦しみかい?」と尋ねられたので「そんなところです」と答えた。
「過去の9連覇はこいつらに関係ないからね」
そう言って、ドアを閉めた。
今年も3年生にとって、“たった1度の夏”がやってくる。