花咲徳栄、2017年日本一のチーム育てた指揮官“野球は人生の修行”。選手がブレずに輝く理由
花咲徳栄は、埼玉県勢として初めて夏の甲子園優勝を果たした。チームを率いたのは、今大会で9回目の甲子園出場となった岩井隆監督だ。強力打線と安定した投手陣を育て上げ、中里浩章氏の著書『高校野球 埼玉を戦う監督たち』からは、高校野球の監督と教育者としてのバランスの良さがうかがえる。取材は2017年1月。
2017/08/24
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選手には普通の子でいてほしい
今後、花咲徳栄で3年間を過ごす選手にはどうなってほしいか尋ねると、第一声はこうだった。
普通の子でいてほしいかな――。
勝ち気であってほしくないし、野心でギラギラしてほしくないし、あわよくばわよくばクラスの中で目立たなくてもいい。一般社会に溶け込んでいて、フタを開けてみたら、アイツ野球部だったんだって……。そう思われるくらいでちょうどいい。
みんな勘違いしてさ、廊下でもやたらと大きな声で挨拶するんだよね。でも近い距離でそういう挨拶をしたら、普通はうるせぇなってなる。だから、その場の雰囲気を察して使い分けなければ意味がないんだよと。
世の中には野球を知らない人のほうが多いわけだし、一般社会では『野球をやっていたからこういうふうにできます』って言えるようにならないとダメだと思うんですよ。だって他の人からしたら、毎日野球をやっている俺たちを見て、バカじゃねぇのって思っていることもあるだろうし。
それでも野球をやるっていうのは、人生の修行みたいなもの。武士の“武”っていう字はさ、戈(ほこ)を止めるって書くから武器を出さないっていう意味。つまり、黙っていても相手が強いって思ってくれるということでしょう。それと同じで、俺は野球部なんだって威張っているようじゃダメなんだよね。
「高校野球は高校の部活動なんだから、学校が認める野球部にならなければいけない」というのが岩井の考えだ。
監督という立場でも決して後ろにふんぞり返らず、教育者としての一面を見せる。そんな指揮官がバランスを取っているからこそ、花咲徳栄は土台がブレずにさん然と輝いていられるのだ。
書籍紹介
『高校野球 埼玉を戦う監督たち』
深紅の大旗を最初に勝ち獲るのはどこか?
プロ野球選手を多数輩出。名門校・強豪校・新興校ひしめく全国有数の激戦区も、埼玉県勢はいまだ夏の甲子園で優勝なし。高校野球にかける指導者、6者6様のライバル物語
第1章 浦和学院 森 士監督
第2章 春日部共栄 本多 利治監督
第3章 聖望学園 岡本 幹成監督
第4章 花咲徳栄 岩井 隆監督
第5章 上尾 高野 和樹監督
第6章 松山 瀧島 達也監督
【特別収録】僕の埼玉高校野球
土肥義弘(春日部共栄→西武 現埼玉西武ライオンズ一軍投手コーチ)