日曜劇場『下剋上球児』原案 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#3 2時間に1本しかこない通学電車
2023/10/10
菊地高弘
名松線は生徒たちのコンプレックス
野球部の監督に就任した東は、この名松線に白山の生徒たちのコンプレックスがあるのではないかと見ていた。
「白山の生徒ばかりが乗るので、『人に見られる』という意識がないんですよ。白山の生徒にとって、名松線に乗ること自体が劣等感の始まりなんです。松阪駅には近鉄線も出ているんですが、通勤する人など利用者が多くて本数も多い近鉄線に比べて、名松線は2時間に1本しか出ない。他校の生徒が近鉄線に向かうのを横目に見ながら、白山の生徒は名松線に乗り込むんです」
白山高校は1959年に前身の久居農林白山分校が廃止され、同年4月1日から開校された歴史のある学校だ。白山町に住む人間に地元の進路先として重宝されていたが、過疎化が進むとともに人気が低迷していった。
かつては全校生徒が1000名を超えた時代もあったものの、2010年以降は1学年120名の定員にすら満たなくなった。『家庭教師のトライ』が発表している三重県内の公立高校の偏差値一覧によると、白山はもっとも低い「40」に位置づけられている。多くの生徒は志望校に落ち、「入れる学校がここしかなかった」と後ろ向きな姿勢で入学してくる。胸を張って「自分は白山高生です」と言うのがはばかられるほどだった。
白山の校舎からわずか徒歩2分の立地でクリーニング店を営んでいる畑公之は、こんな光景を見てきたという。
「10~15年前(2000年代前半)はダラッと制服を着て、ゴミは散らかすし、田んぼの裏や物陰に隠れてたばこを吸う子がたくさんいましたよ。毎朝、先生が校門の前で『遅刻やから早く行け行け!』って生徒を押し込むようにして連れていっていました」
多くの生徒にとっては「行きたくなかった高校」であり、地元の人間にとってもどこか煙たい存在。それが白山高校だった。
(第4回につづく)
書籍情報
『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』
定価:本体1500円+税
10年連続、県大会初戦敗退の弱小校 かつて県内で一番対戦したくない 〝荒れた高校”がまさかの甲子園!?
「一生覚えとけよ。こんだけの人が、お前らを応援してくれてんだぞ」
2018年夏の甲子園に初出場した三重県立白山高校。 白山高校は、いわゆる野球エリート校とは対照的なチーム。 10年連続県大会初戦敗退の弱小校。「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ……。
そんな白山高校がなぜ甲子園に出場できたのか。 そこには、いくつものミラクルと信じられない物語が存在した。
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【著者紹介】
菊地高弘
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、ライターとして独立。 『中学野球太郎』誌上では打者として有望中学生投手と真剣勝負する「菊地選手のホームランプロジェクト」を連載中。 著書に『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)、『野球部あるある』シリーズ(「菊地選手」名義/集英社)がある。 Twitterアカウント:@kikuchiplayer