100年の時を経て肩を並べる2人の安打製造機 イチローとタイ・カッブの共通点
メジャー通算安打記録で、「野球の神様」の数字を抜いたイチロー。しかし、そのことに対しては実に淡々とした反応だった。だが、次はどうだろうか。「神様」の先には「球聖」が待っている。歴代2位の4191安打を残したタイ・カッブである。
2015/05/25
タイ・カッブが残した一つの伝説
1909年には打率.377、9本塁打、107打点で3冠王に輝いた。だが、当時は「飛ばないボール」の全盛時に加え、球場も両翼などが異常に広く、本塁打数自体が少なかった。この年カッブが放った9本塁打は実はすべてランニング本塁打で、史上唯一柵越えなしで3冠王に輝いている。
シーズン打率4割超えは3度もマーク。1911年にはいずれもシーズン自己最多の248安打で、打率.420の成績を残した。
1920年代に入り、ルースの出現で時代はホームラン偏重に傾いた。当時の世論は「ルースはスラッガーだが、カッブは単打しか打てない」と、ルース擁護が圧倒的。そこでカッブは一つの伝説を残している。
25年5月のブラウンズ戦前だった。両者の比較論、そして人気がルースに集中することを嫌ったカッブは、囲んだメディアに「あす、あさっての試合で見せたいものがある。よく見ておきなさい」と言い放った。
翌日のブラウンズ戦でカッブは文句なしの柵越えで3本塁打。その翌日も2本の柵越えホームランをかっ飛ばしたという。そしてルースには「ホームラン狙いをやめれば、打率4割も打てるのにな」と進言したというのだ。
どこかで聞いた台詞じゃないか―。と感づいた方は熱心なイチローフリークかもしれない。
2007年のオールスター。史上初のランニング本塁打を含む3安打を放ち、MVPに輝いたイチローは試合後の会見で「あなたは打撃練習では大きな柵越えをよく放つ。その気になればホームランを何本くらい打てるんだい?」と問われ、こう答えた。
「打率2割2分でいいなら40本、と言っておきましょうか。でも誰も望まないですよね、そんなこと」
持ち味である安打と走塁を突き詰め、そこに執念を燃やした2人。日米通算、という括りではやはり単純比較は難しいが、およそ100年の時を隔てて、2人の安打製造機が肩を並べようとしている。
ルースに対しては多くを語らなかったイチローの胸中に、その時、一体何が去来するのか。遠くない将来訪れるであろう「その時」が、今から待ち遠しい。
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