MLBのマイナー大幅縮少案に広がる懸念。もはや「ハンバーガーリーグではない」革新進む現況を日本人コーチに聞く【インタビュー】
メジャーリーグの舞台を夢見るマイナーリーグの選手たちに、選手生命を脅かす危機が訪れている。実際、多くの選手がその道を閉ざされる可能性が高い。かつてタフな環境から「ハンバーガーリーグ」と表現された組織だが、今日では様々な改革とともに選手の育成が進められている。メジャーリーグの根幹を揺るがしかねない懸念が広がる中、マイナーリーグの現場に立つ指導者は何を思うのだろうか。
2019/11/19
Getty Images
「待遇を良くしても良い方向に働くとは限らない」。厳しい環境での競争が“強い選手”を生む
三好氏はNPB(日本プロ野球)やMLB傘下での選手経験がなく、独立リーグで指導者として研鑽を積み、2018年シーズンからツインズにコーチとして迎えられた希少な日本人だ。マイナーリーグの現況について、現場を肌で知る三好氏に尋ねてみた。
――マイナーリーグを縮小する計画についてどう思いますか?
三好氏「(エリザベストン・ツインズが所属する)アパラチアン・リーグは残すべきだと思いますね。全チームが地理的に近い場所に固まっているので、遠征に時間がかからない。一番遠くて3時間ぐらいで、近いところだと15分ぐらいで行けます。スケジュールに余裕があるからシーズン中の試合がある日もチーム練習ができます。このレベルの選手たちはまだファンダメンタル(基礎)が不足しているので、試合経験は勿論ですが、それ以外にも練習が必要なのです」
――しかし、実際にマイナーリーグ選手たちは経済的には非常に苦しい生活をしていると聞きますが?
三好氏「給料が安いのは間違いありません。ルーキーリーグでもドラフト上位で入団した選手は契約金を取り崩して生活していますが、それ以外の選手は(給料の出ない)シーズンオフに別の仕事をしなくてはいけない。でもシーズン中は散財をしない限りは普通に食べて野球をすることはできますよ。地元ファンの家にホームステイをすることもありますし、その家が食事まで提供してくれることだってありますしね」
――ですが現実的にメジャーに昇格できる選手はごく僅かですよね?
三好氏「その通りです。僕らがいるのは90%以上の人間がいつかは首を切られる世界なのです。その厳しい環境での競争を生き残ってくるからこそ、強いメジャーリーガーが生まれる。今より待遇を良くしたからって、それが選手たちにとって良い方向に働くとは限らないと思いますね。むしろ今でもツインズのトレーニング施設などは何から何までも揃っていて、僕の目からすると恵まれすぎているとさえ思います」
――マイナーリーグは食事なども粗末だと聞きます。「ハンバーガー・リーグ」なんて呼ばれていますね
三好氏「ツインズはもうそうではありません。ルーキーリーグでも試合の前と後に、栄養士が管理したきちんとした食事が出ます。これはロサンゼルス・ドジャーズのマイナーリーグ・ディレクターだったゲーブ・キャプラーさん(現サンフランシスコ・ジャイアンツ監督)が始めたことです。ツインズのマイナーリーグ・ディレクターだったジェレミー・ゾルさん(現アシスタントGM)は元々キャプラーさんの右腕として働いていた人で、ツインズに来てからも大きな改革を次々に実行しています。他にもキャプラーさんの部下だった人たちがあちこちのチームに散らばって、MLB全体に新たな流れを作りつつあります」