「野手投げ」ってなに?…「投球」と「送球」の明確な違い。目指すべき方向は正反対
2022/05/09
産経新聞社
3 打ちにくい投球と捕りやすい送球
打者に投げるのが投球、仲間に投げるのが送球と考えたとき、「打ちやすさ」「捕りやすさ」が関係してくる。
投手は打者からボールが〝見えにくい〞フォームを追求する一方で、野手が投じる送球が〝見えにくい〞と、仲間が捕りにくい状況が生まれてしまう。これが、両者のフォームの違いにも大きな影響を及ぼすことになる。
投手は半身での体重移動を長く取り、前肩の開きをできるだけ抑えて投げる。打者からすると、投手の胸と、ボールを持った手がなかなか見えてこないので、タイミングを取りにくい。この体重移動の長さこそが、投手の最大の特徴であり、「野手兼投手」を育成するための最大のポイントと言っていい。
野手は体重移動の時間が短く、前の肩の開きが早いのが特徴となる。俗に言われる「野手投げ」がこれだ。肩を開くことで、ボールを早く見せようとしているのだ。それによって、仲間が捕りやすい送球ができる。マウンドでこの投げ方をすると、どんなに球速表示が出ていても、打者にとっては見やすく、打ちやすいボールになってしまう。高校野球を見ていると、肩の強いショートやサードがリリーフで登板し、スピードは速いが打たれるケースを目にする。体重移動に意識を向けることで、ホンモノの投手に近い球質に変わっていく可能性がある。
もうひとつつけ加えると、投手の場合は体側に隠すようにしてテイクバックを取るが、野手は早めにトップを作り、送球の準備に入る。横移動が短い分、トップを早く作らなければ、上半身と下半身のタイミングが合ってこないからだ。投手をやる場合には、トップに入るまでに時間を作る必要が出てくる。
また、投手は「9人目の野手」と言われるように、バットにボールが当たった瞬間から、守備者のひとりとなる。そこで求められるのは、投球ではなく送球だ。投球では前肩の開きを抑える必要があるが、送球では前肩を早めに開く。よく見るケースが、走者二塁からのバント守備で、三塁封殺を狙う場面だ。肩を閉じて投げようとすると、三塁手はボールの出どころが見づらく、送球への対応が遅れてしまう。前の肩を先に開いて、胸を見せて投げるような意識を持ったほうが、三塁手も捕りやすくなるだろう。