【キャリアハイ編】セイバーメトリクスの視点で見るNPB歴代最強打者ランキングトップ30
2023/02/08
産経新聞社
得点ではなく勝利を増やした数なら村上は…
ランキングについて、全体的な顔ぶれについてはほぼ想像されたものであろう。ただその並びについては様々な感想を持たれると思う。例を挙げると1950年はベスト10に小鶴誠(松竹)、藤村富美男(大阪)と複数名がランクインしている。これはこの年、よく飛ぶボールが使用されて打撃記録のスケールが大きくなりやすかったこと、8チームだったリーグを15チームとする大エクスパンションにより、選手間の差がつきやすくなった影響が大きい。NPB創設後2リーグ分裂を経て、現行のチーム数になるまでの成績は、扱いが難しい。
ただこのうち、前者の打撃成績が大きくなりやすいシーズンがあるという問題については、「勝利換算」という概念を用いることで、対処することができる。得点が多く(または少なく)記録されるシーズンについては、チームの勝利を1つ増やすために必要な得点もわずかに増加(減少)する。この増減を把握するための式は既に公開されており、これによって求められる結果が「勝利換算」の値なのだ。
セイバーメトリクスの考え方では最終的な目標は勝利であり、得点はそれを購入するための通貨にあたる。商品に当たる1勝を購入するために必要な得点(通貨)が折々で変化することはインフレ・デフレや為替レートなど、実生活でも身近に実感できるはずだ。セイバーメトリクス的にはwRAAよりもむしろこの勝利換算の値の方が本質的な実績と言えるかもしれない。この勝利換算についての歴代ベスト10をイラストに示す。この表も各選手のベストシーズンだけを拾っている。
この評価で村上宗隆は王貞治に次ぐ歴代2位にあたる利得をチームにもたらしたことになる。なお、この表で目立つのは9位の山内和弘(1956・毎日)ではないだろうか。この年の山内は打撃三冠のうち一つも獲得していない。旧来型の打撃成績では、歴史的な攻撃力を発揮したことを把握できないだろう。リーグが8チームで成立していたこと、年間154試合も挙行されていたことなど、やや数字が大きくなりがちな事情はあるが、それを考慮しても一般に山内の過小評価は定着してしまっている感がある。