今回の金子千尋のFA宣言から考える〝ルールの不備〟【小宮山悟の眼】
千葉ロッテ、さらにはニューヨーク・メッツでプレーし、現在プロ野球解説者・評論家の小宮山悟氏の連載がスタートする。さまざまな球界のニュースや動きに対して、小宮山氏の眼にはどう映るのか? 新しい野球のミカタをファンの皆さんに提示していきたい。第1回目は、今回の金子千尋投手の国内FA宣言についてだ。
2014/12/07
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一刻も早く完璧なルール作りを
金子のケースとは違うが、私にもルールの不備に直面するという、似たような経験がある。
99年オフ、私は千葉ロッテマリーンズをクビになった。いわゆる戦力外通告を受け、自由契約選手になることに。球団からその旨を言い渡されたのは、日本シリーズの数日前だった。
ただ当時の私はFA権を有していた。
FA規約によれば、FAを行使する選手は、その年の日本シリーズ終了後から7日間以内(土・日・祝日は除く)に、その意思を表明し、コミッショナーに文書で申請しなければならない。そして8日目にコミッショナーから、FA宣言選手として公示され、その翌日から契約交渉を行うことができるようになる。
一方、自由契約の場合、各球団が11月30日までにコミッショナーに提出しなければならない契約保留選手名簿(※球団が来季も契約する意思がある選手の名簿)から外れた時、12月2日に自由契約選手として公示される。
つまり99年オフ当時、私は球団から自由契約選手になることを日本シリーズ前に通告されていたものの、身分としては、11月30日までロッテの支配下にあったわけだ。球団と結ぶ統一契約書にもそう明記されている。
もし私がFA権を行使しようとした場合、その11月30日までロッテの支配下にあることによって、不具合が生じてしまう可能性があった。先に記したように、FA宣言選手が公示されるのは日本シリーズ終了の8日後。ただ、その公示されるまでの期間も身分としてはロッテの支配下なのだから、球団側がその気になれば、たとえばトレード対象選手になることもあり得たわけだ。
FAを宣言する選手は、公示されるまでの期間にどういう身分・身柄なのか。実は当時の野球協約には、そのことが明記されていなかった。
当時の私に、そのルールの不備・盲点を、たとえば契約の抜け道にしようという考えはなかったし、ロッテ側にトレードを画策する意思があったかも定かではない。それでも、直接申し出ると角が立つと思い、選手会を通してNPBへ質問してもらった。
状況が違うので単純には比較できないが、金子サイドにもそれくらいの配慮があっても良かったのではないだろうか。
選手と球団の双方が納得できる落としどころを探るのが交渉の本質。騒ぎを大きくしても、金子の「メジャーで投げたい」という願望に近づくわけではないだけに残念だった。
金子はメジャーに向けて準備してきた
個人的には金子がメジャーのマウンドに上がる姿を見てみたいと思う。
いかにも日本人投手らしい、きれいなスピンのかかった彼の投球……いわゆる上品なボールが、メジャーのバッターたちに通用するのかどうか。非常に楽しみだ。
メディアやファンの中には、今回のポスティングシステムでのメジャー移籍希望と国内FA権の同時行使を、国内他球団へ好条件で移籍するための戦術だといううがった見方もあるが、私はそうは思わない。
金子の希望は「いつかメジャーで投げてみたい」という思いにあると推察する。今年のオリックス春季キャンプ、彼は2月15日まで投球を開始しなかった。この2月15日というのは、メジャーのスプリングトレーニングのバッテリー集合日と重なる。
きっと翌年、海を渡った場合のシミュレーションをしていたに違いない。「メジャーで投げたい」という金子の希望は純粋だ。いつか彼の志が成就する日が来ることを願いたい。
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小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。