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元巨人・クロマティが率いた流浪のサムライ球団――「荒れ狂う指揮官、押し黙る選手」【『サムライ・ベアーズ』の戦い#1】

皆さんは、かつて巨人で活躍したクロマティ氏が、アメリカの独立リーグで日本人だけのチームの指揮官として戦っていたことをご存じだろうか。そのチームは『ジャパン・サムライ・ベアーズ』と名づけられた。

2017/01/18

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阿佐智



メジャーリーガーとして引退すれば悠々自適の生活

 ウォーレン・クロマティの名は、彼が日本を去って30年近く経った今でも、野球ファンの記憶に残っている。

 当時、メジャーでは出番のなくなった引退間近のベテランが余生を過ごすために来たのとは対照に、現役のレギュラーメジャーリーガーとして1984年に来日、野球人気を独り占めしていた読売ジャイアンツで主力として活躍した。

 ケガでシーズンを棒に振った年もあったが、日本での7シーズン、ずっと外野のポジションを守り続け、最後の年まで主力としてジャイアンツの3度の優勝に貢献した。そして、自ら退団した後は、メジャーに復帰し、その年1991年限りで現役を引退している。ある意味彼の野球人生は挫折知らずと言っていいかもしれない。

 しかし、現役を引退したあとの野球人生は思ったようにいかなかった。
 現役最後のシーズンをカンザスシティ・ロイヤルズで過ごしている。日本帰りの38歳のベテランにポジションを用意されることはなく、代打や時折指名打者としてスタメンに名を連ね、148打席に立って現役生活を終えた。打率は.313とベンチウォーマーにするにはもったいないほどだったが、彼にはもう十分だった。このシーズンでメジャー登録10年を満たしたのだから。「満たした」というのは、通算でこの期間メジャーのロースターに登録されれば、年金が満額もらえるのだ。

 結局、彼はメジャーリーガーのままフィールドを去った。現役時代の報酬と年金が日本とは比べ物にならないアメリカでは、名を馳せたメジャーリーガーは、悠々自適の生活をすることが多い。

 メジャーの指導者に現役時代さほど実績を残せなかった者が多いのは、そもそもメジャーのスーパースターがそういう仕事をやりたがらないからでもある。

 トップのメジャーリーグでさえ、3月のスプリングトレーニングから10月のワールドシリーズまで、半年以上も旅から旅への生活。そんなことより、彼らは目の前に積まれた札束を寿命が尽きるまでに使い切らねばならない。
 メジャーリーグはまだいい。監督ともなればその報酬もなかなかのものだから。しかし、マイナーリーグに至っては、よほど金に困っているか、よほど野球好きでないと指導者になろうという気にはなかなかならないだろう。

 私はかつて南部、アパラチア山脈の麓にあるルーキー級のマイナーチームを訪ねたことがある。そのリーグのシーズンは2カ月半ほど。そんなところで安月給でコーチや監督をしても、それだけでは生活はできないだろう。そのチームでピッチングコーチをしていた30代前半の若い男は、シーズンが終われば元の仕事、サンディエゴでの野球塾のコーチに戻るんだと言っていた。

 メジャーはおろか、その傘下のマイナーですらプレー経験のない、その男にとってメジャー傘下のファームチームでのコーチという肩書きは安月給を補ってあまりあるものだろう。彼がプロとしてプレーしていたのは独立リーグというプロ野球だった。メジャーリーグのドラフトに漏れた若者たちが自らの能力に見切りをつけることができず、プレーする小規模のプロ野球リーグである。

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