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荒木大輔、ドラフト1位の肖像#3――「プロに行く気0%」を変えさせた、『アイスクリーム』事件

かつて「ドラフト1位」でプロに入団した選手1人の野球人生をクローズアップする。華やかな世界として脚光を浴びる一方で、現役生活では「ドラフト1位」という肩書に苦悩し、厳しさも味わった。その選手にとって、果たしてプロ野球という世界はどのようなものだったのだろうか。

2017/10/26

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『アイスクリーム』事件

 事態が動いたきっかけは「アイスクリーム」だった。
 
 12月10日、監督の武上が休暇で滞在していたハワイから帰国、その足で荒木家を訪問したいという連絡を入れたが拒否された。武上はハワイ土産のチョコレートとアイスクリームをチームマネージャーに届けさせた。しかし、これも受け取ってもらえなかった。
 
 これが新聞に写真入りで大きく報じられた。
 
「アイスクリームの一件で学校から呼び出されて、ちゃんと会って話をしなさいと言われたんです。アイスクリームを勝手に置いたのは向こう側。ぼくもむっとして、会えばいいんですねって。そうしたら担当(スカウト)だけじゃなくて、3、4人来たんです。ぼくもそういう態度でいたせいかもしれませんけど、向こうは一言も喋らない。何も喋らずにまた来ますって帰っていったんです。終わった後、あの人たち何しに来たんだろって、親父に言った記憶があります。ぼくに1、2時間とか長く感じましたけど、30分ぐらいだったのかもしれませんね。余計に不信感を持ちますよね」
 
 それをひっくり返したのが、オーナーの松園尚巳だった。

 14日午後3時前、松園は荒木家を訪れている。
 
「オーナーが来るっていうから、立ち会わなきゃいけない。会ってみるともう全然凄いんですよ。ああ、トップになる人っていうのは全く違うんだなと思いました。高校生はイチコロですよ」
 
 松園は組織の中を当たり障りなく、器用に泳いできた“サラリーマン社長”ではない。12歳で父親を亡くし、母親を助けながら育ってきたという話は、荒木だけでなく、両親の心を揺さぶった。
 
「無理にヤクルトに入れという話は一切なかった。ただ、野球が駄目になっても社会に出られるようにちゃんと教育するというような話をしてくださった。ぼくも元々野球は大好き。話を聞いているうちに、プロでやってみてもいいのかなと思い始めた。そして自分は行くものだという気になってきた」
 
 松園は16日にも荒木家を訪れている。別れ際、荒木の口から自然とお世話になりますという言葉が出たという。
 
「ヤクルトが(引退後の)終身雇用を保障したとかいう報道がありましたけど、そういうのじゃないんですよ。そんな話は一切出なかった。出たらぼくは全部はねのけたでしょうね。松園さんはぼくの性格を見抜いていた」
 

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