【日本Sを読み解く】ソフトバンク・今宮が生還できた二つの理由。“5.62秒”の奇跡が手繰り寄せた勝利
日本シリーズ第2戦は、福岡ソフトバンクホークスが横浜DeNAベイスターズを4-3で下した。一時はDeNAにリードを許したが、執念の走塁と堅守で勝利を手繰り寄せたソフトバンク。勝負を決めたポイントはどこにあるか。
2017/10/30
今宮が生還できた二つの理由
なぜ、今宮は生還できたのか。
ポイントの一つはスタートだ。それは、ゴールデングラブ賞4年連続受賞の守備の名手のなせる業だった。
「あの場面はツーアウトだったので、ボールがバットにあたるインパクトの瞬間だけ。そこの集中ですね。インパクトの瞬間が空振りだったらバックしていたし、当たれば走る。そういった当たり前のことをしただけなんですよ。
インパクトでスタートするというのは誰でもできることですけど、そこの集中に関しては、僕は守備からずっとやっていることで、それが走塁に生きた。インパクトの集中力は人一倍持ってやっているので、当たり前のことをやってきてよかったなと思います」。
そして、もう一つは本塁突入の際、今宮がヘッドスライディングを選択したことだ。
これまで、今宮は本塁生還においてヘッドスライディングをしたことがなかった。しかし、「アウトになる」という危機的状況で、とっさの判断から手で先にベースに触れようと狙った。
「三塁を蹴ってからボールがどこにあるかを見たんですけど、僕がまだ走っているときにキャッチャーはボールを持っていた。頭でいった方がいいと思ったんです。ヘッドスライディングをしたことがなかったんで、怖さもあったんですけどそんなことは言ってられなかった。
交わす余裕もなかったし、それが逆にまっすぐホームにいけてよかったのかもしれないですね。タッチはされましたけど、指ではなく手首にされたという感覚があったので、セーフかもしれないと思いました。足からいっていたら厳しかったと思う。究極の選択でした」
タイムさえ度外視したプロフェッショナルの走塁だった。
片側の都合のいいリプレー映像を見れば異論を唱えたくなるのはファン感情というもの。それを否定するつもりはない。
ただ野球を愛するもとのとして忘れてほしくないのは、DeNAの右翼手・梶谷が好返球をして、通常ならセーフになり得ない好走塁を今宮が見せた。この舞台に立つことを許されたたった二つのチームの選手たちによる良質なプレーが生まれたということだ。
良質なプレーはこれだけではない。東浜巨、今永昇太の両先発が見せた寸分の狂いもないコントロールで打者を打ち取っていったピッチングは見事だった。
今永が2回裏、無死2塁から三者連続三振に切って取れば、東浜も3回表、先頭から三連続三振をみせた。
2人のピッチングが試合の緊張度を高め、観衆が固唾をのんで見守る展開へと引き込んだのは間違いなかった。
1点ビハインドから飛び出した梶谷の同点弾。ソフトバンクの工藤公康監督が決死の継投を施しながら、5番・宮崎敏郎が勝ち越しの2点弾を浴びせたのもまた見事だった。
わずかな差で雌雄を分けた試合には言葉に表せない快感がある。プロフェッショナルな争い。まさにもう一度見たいゲームだった。