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グリエル、デスパイネ、メンドーサ……キューバ野球の「壮大なる実験」は祖国に何をもたらすか?

キューバは今、野球シーズンのクライマックスを迎えている。デスパイネ、メンドーサらNPBでプレーする選手もこちらのリーグでプレーしている影響で日本の開幕に間に合わず、合流が遅れている。すでに今季はグリエルの退団問題も起きており、キューバが行っている、いわゆる選手の「レンタル移籍」に課題もある。この壮大な実験は、日本・キューバの両国に何をもたらすのだろうか。

2015/04/07

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阿佐智



人材の流出阻止へ選手の「レンタル移籍」を積極的に採用

 その4日後。ハバナから300キロほど南東の町、シエゴデアビラ。デスパイネ率いるグランマは、1勝1敗でホームでのシリーズを終え、この町に入ったが、前日に予定されていた第3戦は、試合前の豪雨でこの日に持ち越された。日曜とあって、試合3時間前にはスタンドは観衆で埋まっていた。キューバの球場には、ネット裏の一部を除いて椅子はなく、コンクリートむき出しのスタンドに観客は腰かける。したがって、スタンドを登る通路もとくにないような状態なので、ビッグゲームになるとまさに立錐の地のない状態になる。この地方都市の球場には外野にスタンドはなく、入りきれないファンは、外野フェンスに上って試合が始まるのを待っている。

 ちなみに入場料は1ペソ(約4円)。社会主義の理想の元、「公務員」たるプレーヤーたちは、国民に娯楽を提供している。しかし、このことは、貧しい者に対しても質の高いプレーを提供している一方、その技能に応じた報酬を選手たちが手にはしていないことを示しており、グローバル化が進む中、自らの国際的な「市場価格」を知ってしまった選手の多くは、リスクを冒してこの島を出るようになっている。

 そのような人材の流出を食い止めるべく、キューバ政府が数年前から行っているのが、選手の「レンタル移籍」である。世界中のプロ球団は、キューバ政府を仲介として、選手を獲得するのだが、選手たちのキューバリーグでの所属はそのままで、あくまで国内リーグでのプレーを優先して、国外プロリーグでプレーする。政府は、選手が手にした報酬からいくばくかを「仲介料」として取ることで、不足気味の外貨を稼ぎ、選手は亡命というリスクを冒すことなく、国外でプロ選手として自分の力量に見合った報酬を手にすることができる。なんといっても、彼らレンタル組は亡命組と違って代表チームにも参加できるので、近年不振の国際大会での成績向上にもつなげることができる。

 繰り返しになるが、ここでネックになるのが、選手の体への負担と、国外プロリーグとのスケジュール調整である。選手を「雇う」プロ球団側からすれば、シーズンを通してチームに帯同しない「助っ人」は、決して喜ばしいものではないはずである。

 デスパイネも、メンドーサ同様、「日本でのシーズンも問題ない」と胸を張る。グリエルの一件で、日本球界もキューバ人選手獲得のリスクが決して小さくはないことを痛感したはずだ。プレーオフは、ともに4勝1敗で決着がつき、メンドーサのラ・イスラは決勝シリーズに進出することになり、デスパイネのグランマはシーズンを終えた。この記事がアップされている頃には、デスパイネは日本に到着しているかもしれない。野球大国、キューバの始まったばかりの「実験」が正しいか否かは、彼らの日本での活躍具合にかかっている。

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