捕手が「リード」を語る前にすべきこと【里崎智也の里ズバッ! #01】
今季から野球解説者として各方面で活躍している、元千葉ロッテマリーンズ・里崎智也氏の連載が、いよいよ当サイトでもスタート。2度の日本一、WBC優勝など16年間の現役生活で輝かしい実績を数々残してきた“幕張の大天使”が、その経験に裏打ちされた自身の「捕手論」を語ります。
2015/05/02
Getty Images
「120人の選手データ」が最低ライン
ただ、いくら「リード」が、そうした不確定要素に大きく左右される駆け引き、ある種のギャンブルだとは言っても、キャッチャー自身が「配球術」を学ぶ努力をすることで、それが「当たる」確率をより高めていくことは十分できる。
その第一段階、初級編として、僕が条件に挙げているのが、同じリーグに属する他の5球団の主力選手、おおよそ14人~5人に、交流戦でぶつかる他リーグ各球団のスタメン全員分、合わせて120~130人の長所・短所、打球方向、カウント別対応の仕方といった各種のデータを、いつ何時、どんな形で質問されても、8割方は答えられるようにしておくこと。
たとえ、寝起きドッキリのような形で叩き起こされたときや、お酒が入って気持ちよく酔っぱらっているときであっても、「○○!」と名前を言われたら、バッティング傾向から、得意な球種、苦手なコースまで、その選手のあらゆる情報を、瞬時にそらんじられる。
僕自身の経験から言っても、それぐらいのことが最低限できるようになって初めて、プロのキャッチャーとしてのスタートラインに立てると思うのだ。
なにしろ、僕の考える「リード」とは、1打席ごとにひたすらエンドレスで繰り返される、「計画」して、それを「実行」に移し、その結果を「反省」して、次に活かす──という、3つのステップを、最善の選択肢へとブラッシュアップしていくことに他ならない。
そこでもし、当の本人に「配球」に関する予備知識の蓄積がなければ、その時点で駆け引きという名の「計画」は頓挫。どれだけ実戦をこなして「実行」してみたところで、「反省」材料は何も残らず、必然的に「リード」のアップデートも望めないというわけだ。
もちろん、人間の記憶力には限界もあるから、それらすべてを完璧に覚えるなんてことは現実的に考えても、ほぼ不可能だと言っていい。
だが、それらの情報をイチイチ、メモに取っているようでは、いつまで経っても半人前。ミットを構えているその瞬間にはノートを見ているヒマなどない以上、自分の持てる力を総動員してでも、頭のなかに叩きこんでいくしかないのである。
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里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ。徳島県鳴門市。鳴門工(現・鳴門渦潮高)、帝京大学を経て、98年のドラフト会議で、千葉ロッテマリーンズを逆指名(2位)して、入団。03年に78試合ながら打率3割をマークし、レギュラー定着の足がかりをつくる。05年は橋本将との併用ながらも、日本一に貢献。06年にはWBC日本代表として世界一にも輝いた。また、大舞台にもめっぽう強く、05年プレーオフのソフトバンク戦で馬原孝浩(現・オリックス)から打った、日本シリーズ進出を決める値千金の決勝タイムリーや、故障明けのぶっつけ本番で臨んだ10年のCSファーストステージ・西武戦での、初戦9回同点タイムリー、長田秀一郎(現・DeNA)から放った2戦目9回同点弾をはじめ、持ち前の勝負強さで数々の名シーンを演出。00年代の千葉ロッテを牽引した〝歌って、踊って、打ちまくる〟エンターテイナーとして、ファンからも熱烈に支持された。