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第4戦“セーフティースクイズ”に見る日米野球の意義 MLB監督が語る「次の世代」への意識

2018/11/16

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「負けられない戦い」である侍ジャパン

 一方、侍ジャパンの選手たちはどうだったか。
 
 あくまで、MLBの選手たちが行なっていた時間帯との比較だけという話になるが、試合前の練習中に自らスタンドに駆け寄りサインに応じていた姿を確認できたのは、山﨑康晃だけだった。スタンドからの名指しの声援に応えていたのも、山﨑ら数人だ。
 
 「人のことはわからないです。みんな試合の準備がありますので」
 
 山﨑はそう言ってチームメイトをかばったが、サインする・しないだけではなく、練習中のファンとのコミュニケーションや声掛けに対して反応しない侍ジャパンの姿とMLBのそれとを比べると、大きく違っていたのは明らかだった。
 
 なぜ、それほどの違いが生まれるのだろうか。
 
 稲葉監督の次の言葉には、侍ジャパンのみならず野球界が抱える問題の一部が垣間見える。
 
 「ファンサービスについてはやっていかなくていけない部分で、メジャーリーガーに学ぶべきところはたくさんあります。ですが、日の丸を背負って戦う緊張感というのは、すごく難しいです。そこはなんでしょうかね。メジャーリーガーが、本当の試合前にあれだけサインをしているかどうかはわからないでしょうし、(侍ジャパンとしては)負けられない戦いの中で、(そう言った行動が)しにくいと言いますかね。これは、やらなきゃいけない部分ではあるとは思いますけど……」
 
 つまり、指揮官の言葉を聞くと、今回のシリーズに挑む侍ジャパンとMLBの選手との間には、気持ちの入り方に違いがあるということを感じていたということになる。
 
 本気の戦いの場であれば、ファンサービスをする余裕などない。同じ土俵で語れないというのは、そもそもこのシリーズへの目的が異なっているということになろう。
 
 では、第4戦目のセーフティースクイズは、大して有効な策ではなかったのではないか。
 
 もちろん、今回のシリーズを侍ジャパン側の視点で考えれば、個々の場面場面での戦いに意味はあったと思う。動くボールへの対応、打席でのカウントメーキング、ピンチでのリスク管理、球数制限を考慮しての継投策などだ。だが、それらは勝敗が介在しなくても、価値のあるものだと言えるだろう。
 
 稲葉監督は最後のミーティングで話した内容をこう語っている。
 
「シーズン後の疲れているなか、ジャパンのために、野球界のために、ありがとうございました。子どもたちがこういう試合を見て野球を始めるきっかけになってくれればいいし、みんなの存在が目標となっているので、そういうことを忘れられないで、目標の選手であり続けてほしい。今回は日米野球でしたけど、来年はプレミア、再来年オリンピックがありますので、少しでもいい、頭の片隅にジャパンを思いながら、これからもプレーをしていってください」
 
 悪い言葉ではないと思う。稲葉監督の熱い思いを感じたのは事実だ。だが、「目標であり続ける」という解釈が、ただ野球だけをやっている時間なのだとすれば、MLB選手たちとは大きく違っているのではないだろうか。

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