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「走者を置いた状態が最悪」対戦投手が嫌がる近藤健介の威圧感と技術【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#130】

Bクラスに甘んじているファイターズだが、チーム打率・防御率は6球団の中で上位に位置し、個人成績においてはリーグトップの選手もいる。特に近藤健介の出塁率は、プロ野球記録更新も決して夢ではない。

2020/09/19

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ビッグイニングをつくられる怖さ

「走者を置いた状態で近藤」が最悪だそうだ。例えば1死1塁くらいで近藤を打席に迎える。1死1塁はピンチらしいピンチではない。中田翔や大田泰示だった場合、2ランを食らう可能性もあるけれど、ゲッツーを取ってチェンジも大いに狙える。が、近藤ではそうはいかない。左打者だからゲッツーも取りにくい。多くの場合、2ストライクまで球筋を見てくるから、カウントを悪くしがちで、球数を要する。投手は気疲れする。あげくに四球で歩かせ、1死1、2塁、もしくはヒットで1死1、3塁。これははっきりピンチの場面だ。下手すればビッグイニングをつくられる。「走者を置いた状態で近藤」はビッグイニングの危険性を常にともなうのだ。ついさっきまで凪いでいた海がものの5分で大荒れになる。
 
 もちろん1死1塁でさえそうなのだから、同1、3塁とか満塁で近藤だったらもっとヤバい。得点圏打率がまた大変に高い(18日23時の時点で.389はリーグトップ)のだ。三振取るのがいちばんだろうけど、バットコントロールの巧みな近藤から三振を奪うには、相当キレのある決め球が必要だ。何度も比較して申し訳ないが、中田や大田の場合、甘い球を満塁ホームランされる危険性もあるけれど、穴だってそれなりにある。近藤には穴らしい穴が見当たらない。
 
 僕は武芸者っぽいなぁと思っている。バットを構え、身体を上下に揺すりながら、投球を見極める。邪魔な球をファウルでしのぐこともあるが、どうかすると1回もスイングすることなく四球で歩いたりする。信じ難いことに2ストライクに追い込まれるのを好む。カウントが2ストライクになり、いよいよあと1球となったほうが集中力が発揮されるそうだ(!)。これは言い方を変えるとこういうことになる。
 
 近藤健介は相手の決め球を仕留めるのを好む。
 
 読みと技術。つまり、武芸に生きる者だ。近藤の場合、小笠原道大コーチが「北の侍」だったようにはサムライ認識が行き渡っていない。パッと見、前掛けをした商家の手代とかそんな感じだろう。が、「ほほえみ剣法」なのだ。なかなか抜かない代わり、抜けば玉散る氷の刃(やいば)。近藤健介の怖さは相手投手が一番知っている。
 
 今季は開幕当初、打率4割を期待する声が上がり、今また出塁率の日本記録更新に注目が集まる。僕らは最高の「武芸者」を見ている。その技術の粋を堪能しようじゃないか。

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