二軍最強打者と甲斐をも超える強肩捕手の交換。ロッテ-中日間のトレードをデータから考察する(加藤翔平⇔加藤匠馬)
2021/06/18
DELTA
田村離脱から“盗塁抑止力”が悪化したロッテ
一方のロッテの視点から見るとどうだろうか。ロッテは今季、正捕手の田村龍弘が4月下旬に故障により離脱。その後は柿沼友哉、佐藤都志也、江村直也らの併用が続くが、いずれも決め手に欠いているのか、チームは捕手起用を定められていない。
田村離脱により具体的にどのような弊害が起こっているのだろうか。まずロッテの月別失点率(9イニングあたりの失点数)を見てみよう。
2021年ロッテの月別失点率
3・4月 3.91
5月 4.74
6月 5.07
田村が離脱したのは4月下旬。これを見ると5月以降に大幅に失点が増加している。こういったデータからチームは捕手に問題があると考えたのかもしれない。しかし、失点の多さは捕手だけに求められるものではない。失点には投手の能力、野手の守備能力、運などさまざまな要素が混ざり合っている。これを田村以外の捕手だけの責任にするのはあまりにも酷である。
ただすべてが捕手の責任とは言えないとはいえ、明確に捕手の違いが表れているデータもある。それは盗塁についてである。今季ロッテ捕手の盗塁阻止率は.211でリーグ最下位となっている。ただここでより注目したいのは阻止力ではなく、「抑止力」だ。以下のデータは今季走者が一塁のみの場合に、投球のうちどれだけの割合で盗塁企図されたかの割合だ(※3)。低ければ低いほど盗塁企図を防いでいる、つまり盗塁を抑止していると考えることができる。
2021年パ・リーグ被盗塁企図率
ソフトバンク 2.0%
オリックス 3.4%
楽天 4.1%
西武 4.1%
日本ハム 6.0%
ロッテ 6.6%
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田村龍弘 4.6%
柿沼友哉 7.7%
江村直也 8.6%
佐藤都志也 8.8%
これを見ると、ロッテの被盗塁企図率は6.6%。これはパ・リーグだけでなく、12球団で最も悪い値だ。さらに捕手別に見てみると、正捕手の田村龍弘が4.6%と12球団平均値4.1%に近い値を残しているのに対し、ほかの捕手は8.0%前後と、非常に高い確率で盗塁されている。つまり完全に足攻めを食らっているのだ。
チームはおそらくこうした足攻めへの対抗策として、加藤匠を求めたのではないだろうか。加藤匠は球界最高レベルの強肩捕手として知られている。盗塁阻止時の二塁送球タイムは2019年に最速1.742秒もマークした。この年のNPBの二塁送球タイムを速い順に10件並べると、うち8件が加藤匠の記録となる。この年に限っては甲斐拓也(ソフトバンク)を凌ぐ、送球スピードを発揮したといっていい。盗塁阻止においてはこれ以上ないほど頼りになる捕手だ。
ただ田村は現在すでにファームで実戦復帰を果たしている。一軍への復帰は近く、加入した加藤匠の出番がそれほど多くなるとは考えづらい。チームは現状の2番手以降の捕手の守備力について十分と考えておらず、絶対的な盗塁阻止能力をもった捕手を控えとして置いておきたいと考えたのではないだろうか。
今回のトレードでチームのポテンシャルを大きく伸ばす可能性があるのは、弱点に強打の選手を獲得できた中日だろう。この補強はシーズンの行方を変えるほどの影響力をもつ可能性がある。ただロッテも課題となっていた守備型捕手を余剰戦力によって獲得できた。このトレードに限らず、ロッテは国吉佑樹、エンニー・ロメロの獲得と、ここ最近の補強の話題をさらっている。弱点に対し現場の運用だけで対応するのではなく、編成部も含めて迅速に対応しており、組織としての強さを感じさせる動きを見せている。
(※3)今回、被盗塁企図率は走者一塁での打球(ファウル含む)が発生しなかった投球のうち、どれだけの割合で一塁走者が盗塁企図を行ったかをカウントした。ただ3ボールからの四球、2アウトからの三振は盗塁企図自体がカウントされないため、含んでいない。
(※4)データはすべて6月16日終了時点
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2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。