8歳の夏、阿部慎之助のプレーに魅了されて――米から日本球界へ挑む、ケビン安藤
ベースボール大国アメリカから日本へ。時代の潮流とは逆のルートに挑む日本人選手がいる。カリフォルニア州オレンジ郡で生まれ育った18歳、ケビン安藤捕手は10年前から抱いてきた日本プロ野球への憧憬の念をかなえるために、12日に広島東洋カープ、19日には読売ジャイアンツの入団テストを受ける。
2015/09/11
写真提供/安藤美枝
退路を断って入団テストへ
充実した時間を過ごしながら、しかし、日本へ抱いた熱い思いが萎えることもなかった。今年6月にエディソン高を卒業し、地元のコミュニティーカレッジへの進学を決めていた夏のある日。ケビンは美枝さんにある頼みごとをしている。
「日本でも絶対にトライアウトみたいなテストがあるはずだから、調べてほしいんだけど」
美枝さんは日本の各球団のホームページを毎日のように事細かにチェックし、最終的には日本プロ野球機構に問い合わせの国際電話を入れた。一緒に帰国した美枝さんが振り返る。
「そうしたら、アメリカに住まれた経験のある方が対応してくださって、いろいろと教えていただいたんです」
今年は広島東洋カープと巨人が入団テストを開催することがわかった。
日程は前者が9月12日で、後者が同19日。ケビンは迷うことなく、2005年に続く2度目の“帰国”を決めた。
しかし、ここで予期せぬ事態が起こる。進学を決めていたコミュニティーカレッジの野球チームは、優秀かつ厳格で地元でも有名なコーチが指導していた。
「日本の入団テストを受けたいので、練習を2週間休ませてください」
すでに練習に参加していたケビンの申し出に対して、コーチは予想外の言葉を投げかけてきた。
「それならば(野球チームを)辞めろ」
コーチの心中を、ケビンはこう察する。
「日本で入団テストを受けるという発想自体が、許せなかったんだと思います。このチームに100%集中できる選手しか必要ないという感じで」
9月4日の練習後。コーチから「どうするのか決めたのか」と聞かれたケビンは、意を決して答えた。
「(日本へ)行きます」
コーチも考えを改めることはなかった。
「じゃあ、もう来なくていい。グッド・ラック!」
結果的に大学の野球チームを退部したいまも、ケビンはいっさい後悔していない。8歳の夏に抱いた夢を一途に追い求める、不退転の覚悟をトランクに詰め込んで機上の人となった。
次回は、9月12日更新です。