髙橋光成よりも…荒井監督が明かす前橋育英史上最高のエースピッチャーとは?
2022/06/21
産経新聞社
殻を破った優しいエース
前橋育英で監督になって21年が過ぎ、毎年エースナンバーを背負うピッチャーがいた。誰かが特別というわけではなく、一人ひとり、1年1年にさまざまな思いがあるが、その中で「前橋育英のエースと言えば誰か」と問われたら、私は外丸東眞を挙げたい。
在学時や、卒業後の実績を見ればおそらく皆が想像するのは髙橋光成だろう。確かに光成はすごい投手で、今では埼玉西武ライオンズの選手会長となり、球界を代表するピッチャーになった。
だがその光成よりも野球に取り組む姿勢において、素晴らしかったのが外丸だ。
2年生の秋からエースナンバーをつけたが、秋は準々決勝で健大高崎に敗れ、春は3回戦で太田高に完敗を喫した。どちらも「自分のせいで負けた」と責任を感じていたが、特に太田高に負けた後は号泣していて、聞けば、次の日まで泣いていたそうだ。
野球ノートにもこう記されていた。
「自分の気持ちが弱くて、その弱さのせいで負けました」
地元前橋の出身で、性格は人一倍優しい。学校の成績も良く、県内有数の進学校である別の高校に進むこともできたが「育英で野球をやりたい」と入学してきた。真面目に努力を惜しまないが、自分でも記したように優しさが弱さになることもある。
大きな壁と直面していた外丸の野球ノートに、私はこう書いて戻した。
「強がっている人間ほど弱い。だから弱さを認めるのは、強くなるための第一歩だぞ」
大げさではなく外丸は毎日最初にグラウンドへ来て、倉庫を開けていた。最初にグラウンドへ来ればえらいというわけではもちろんないが、殻を破るために自分へ何かを課する。それが外丸にとって「変わる」ための第一歩で、事実、一人でもコツコツ練習を重ねた結果、最後の夏に見事なまでに殻を破った。