ジャイロボールはどうやって投げればいいですか…名将もビクビク?個性豊かな前橋育英の「野球ノート」
2022/07/02
産経新聞社
高校野球 最新情報
いよいよ全国各地で甲子園の地方大会がスタート。群馬県でも7月9日から熾烈な出場争いが繰り広げられる。2013年に全国制覇を成し遂げ、甲子園常連校にも数えられる、荒井直樹監督率いる前橋育英高校は今年も甲子園出場が期待されている。本記事では6月21日に発売となった『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(田中夕子構成)から内容を一部抜粋して公開。荒井監督が選手たちとのコミュニケーションツールとして使っている「野球ノート」についてのエピソードを紹介する。
素直な姿を見せてくれるのが何より
コミュニケーションツールが変わり、LINEで動画を送るようになった。そんな話をしておいて、やはりアナログだ、と思われるかもしれないが、選手とのコミュニケーションを深めるうえで私が重きを置くのは二つ。日々の何気ない会話と、野球ノートだ。
前著でも記したが、何もない自分に指導論というものがあるとしたら、その軸になるのが選手との「野球ノート」だ。夏の甲子園に初出場した13年から4年ほど前の2009年から、週に一度、10名ほどのグループに分けて、その日の練習で私が言ったことやそこからの気づき、自分自身の調子や気になることなど、形式は定めず選手は自由に記し、コメントを添えて返す。始めてから10年以上が過ぎたが、今でも前橋育英野球部では「野球ノート」は継承され、近頃はさらに私の想像を超えるようなことを書いてくる選手たちに、いつも笑わせてもらっている。
たとえば、ある選手は必ず質問を書いてくる。一度、こんなことを書いてきた。「ジャイロボールはどうやって投げればいいですか?」
答えはシンプルだ。
「ごめん、俺にはわからない。もうちょっと時間をくれ」
いい大人が何をやっているんだ、と笑われそうだが、わからないものはわからない(笑)。野球ノートを返し、練習が終わってから「ジャイロボール、どうだ?」と尋ねると「何となく投げられるようになってきました」と答えてくるので、「ごめん、俺わかんないからさ。お前の質問がいつもすごいところから来るから、毎回どんな質問が来るんだろうってビクビクしながら開いているんだ」と言うと、照れくさそうに笑っていた。
また別の選手は、野球の練習も熱心に取り組むが、何よりウエイトトレーニングが大好き。卒業後は大学へ進学してアメリカンフットボールをやりたい、と志す選手だ。彼のコメントで野球の話以外にも特に笑わされたのは今年(2022年)の2月22日のコメントだ。
「今日は2月22日、ニャーニャーニャーでネコの日です。でも僕は犬が好きです」
読んでいるだけで面白くて、自然に笑いが漏れる。まるで小学生の交換日記じゃないか、と楽しみながらコメントを書いて、返すと少し心配そうな顔で言ってきた。
「やっぱり、猫の日はまずかったですかね?」
ただの日記を見ているような、笑える関係。こんなやり取りを見れば、誰も高校野球の監督と選手の野球ノートだと思わないだろう。だが大人だから妙にかしこまったり、監督が読むから、と変に意識されるよりも素直な姿を見せてくれるのが何よりありがたい。