独立リーガーの矜持――「プロ8年目」を迎える西本泰承の2016年
NPBの世界を目指すも、夢破れた一人の選手。しかし、彼は今も、野球だけを「職業」に生活している。
2016/01/22
実績十分、プロ球団のスカウトも獲得の意思を示した
1月はじめのとあるグラウンド。そこでは、オリックスからヤクルトへ移籍し捲土重来を図る坂口智隆率いる数人の選手が自主トレに励んでいた。小さなスタンドには、どこで情報を仕入れてきたのか、ファン数名が内野ノックを受ける彼らに熱い視線を注いでいる。彼らは、目の前にいる選手の名を次々と言い当てているが、ただひとり、誰一人としてその名を言うことができない選手がいた。
「日本では『プロ野球選手』とは名乗りませんね。『独立リーグでプレーしてます』ってそれだけ。(去年プレーした)高知ファイティングドッグスの西本とは言いません。だって、『来年も頼むよ』って言われても、それは口約束で、契約は年明けからキャンプインするまでの間ですから。他の選手は、自分のこと高知の選手だっていうでしょうけど、僕には、言えないです」
独立リーガーとはそういうものだと、達観しているかのように自らを紹介した。西本泰承(やすつぐ)は今年で「プロ」8年目を迎える。
高校時代、主力選手として2度甲子園出場、大学進学後も1年の春からショートのレギュラーをつかみ、全日本選手権にも2度出場した。
「NPBですか、高校の時は行きたいって感じでしたね。監督からは夏の甲子園に出たらって言われてましたが、行けなかったんで、志望届は出しませんでした。でも、スカウトが見に来てたとは聞いてました。大学では、3年の時には、普通に行けるものだと思っていました」
有頂天になっていたわけではない、と彼は言う。事実、3球団が獲得の意思を示していた。
「裏切られた気持ちでした」
と、西本は「あの頃」を振り返る。一度は野球をやめようとも思った。
「指名されると思っていましたから、実業団も断ってましたし」
遅い就職活動を始めようとしていた矢先、独立リーグを勧められた。2009年春、彼は高知ファイティングドッグスに入団した。
四国アイランドリーグplusでも彼の守備力は際立っていた。入団後すぐにレギュラーポジションを獲得した西本は、このルーキーイヤーに全試合出場を果たし、チームを悲願の日本一に導いている。
スカウトも注目する中、3年目には、.351をマークするが、ドラフト指名はなかった。
「大学時代に指名を見送った球団が、今度は絶対指名するって。でも、結局指名なし。それならもう日本で野球やっている意味ないなって」