須江先生と勝負している? 3年生左腕との「野球ノート」。仙台育英監督が語る2人の“関係性”
2023/01/27
産経新聞社
野球ノートに記された“迷い”と“本音”
関西遠征から仙台に戻ってきたあと、斎藤の本心を知る機会がありました。彼が提出した野球ノートに、「須江先生からピッチングの組み立てについてアドバイスをもらっているが、自分の良さを消してしまっているのではないか……。今はバッターと勝負する前に、須江先生と勝負している」といった文章が書いてあったのです。
正確に言うと、一度書いたものを消しゴムで消しているのですが、文字がまだ見える状態で残っていて、「監督に伝えたいがために、あえて消していないのでは?」と感じました。モヤモヤした気持ちが、ノートにはっきりと表れている。監督室に斎藤を呼んで、1対1の場を設け、彼の考えと私が思っていることをすり合わせました。
斎藤は普段は口数が少ないですが、「自分はこういうピッチングをしたい」という芯を持っている選手です。この場でも、思っていることをしっかりと口にしていました。「文句」とまでは言いませんが、私への不満もあったと思います。
私は、彼の話をすべて聞いたうえで、プレゼンをしました。夏に向けてはもちろん、大学野球、さらにその上のステージで活躍するには、どんなフィジカル、スキル、思考が必要か。現在地と今後の方向性を示しました。高校生の場合、選手自身が思っている武器と、他者(指導者)が感じている強みには、えてしてズレがあるものです。
私の頭の中では、斎藤が先発投手として育っていかないかぎりは、日本一は見えてこないと考えていました。ボールの力、キレともに優れたものがあり、あとは試合の中でどう組み立てていくかがカギだったのです。
その後、試行錯誤しながら迎えた6月下旬の大阪桐蔭との練習試合でも、カウントを悪くして自滅。相手バッターのレベルが上がると、打たれたくないので、低めへの意識がより強くなる。低めのスライダーも、相手のレベルが上がれば、見極められてしまいます。高めが必要であることを、身を持って体感させるためにも、強豪校に対して、あえて先発投手として使い続けていました。
7月の1週目、横浜(神奈川)との練習試合が大会前最後の実戦登板でした。「これが大会前のラストゲームだよ。どうする? 同じことを繰り返すか、新しい姿を見せられるか」と送り出したところ、高めを効果的に使い、先発として十分な結果を出してくれました。