仙台育英・須江航監督から贈る言葉――【青春時代を過ごす君たちへ】
2024/05/23
編集部
2024年2月、愛知県の私立東海中学・高校にて、土曜市民講座「サタデープログラム」が開催された。生徒による主体的な企画・運営のもと、2002年から年2回行われ、44回目を数える。毎年、さまざまなジャンルの著名人を講師として招き、今回はおよそ60名。その中のひとりに、2022年夏の甲子園を制し、『仙台育英 日本一からの招待』(カンゼン刊)の著者でもある須江航監督の名があった。
【愛にあふれる4つのメッセージ】
講演のテーマは、「青春時代をどう過ごす? 中高生時代に身につけてほしいこと」。
たっぷり1時間半、中学生・高校生に向けて、愛のあるメッセージを送った。須江監督の語り口調のまま、珠玉の言葉を4つ紹介したい。
1.成長に必要な“素直さ”
成功ではなく、失敗にこそ再現性があります。多くの人が、成功した話を聴きたがりますが、その人、その環境、さらに言えば、運や偶然の要素も絡み合っていて、残念ながら、成功には再現性がありません。
学ぶべきことは失敗です。自分の失敗はもちろん、他者の失敗から学べることはたくさんあります。
だから、他者の話に素直に耳を傾けるのはとても大事なこと。この“素直に”は、大人やリーダーに対して“従順”の意味ではなく、“柔軟性がある”ということです。
自分とは意見が違ったり、価値観が違ったりすることに、福山雅治さんが演じたガリレオではないですが、「じつに面白い」と思えるかどうか。
ぼくの経験上、入学してからの3年間で、想像を超えるような活躍を見せる選手の多くは、間違いなく“素直さ”を持っています。
2.違和感や嫌悪感を覚えるものに触れる
なぜ、“素直さ”が大事なのか。
今、みなさんは好きなもの、好きなことに囲まれて生きていることに気づいていますか?
多くの人が、SNSのアカウントを持っていますよね。自分が見たページやチャンネルに近いものが、自然に集まってくる環境になっています。自分の四方八方に好きなものがある、ということです。
一見すると気持ちのいい環境に思えるけど、じつは危ないんですよね。本来は、“ちょっとイヤだな”“自分の考えとは合わないな”という嫌悪感や違和感の中に、学びや気づきがあるものです。そういうものに触れる機会が減ると、選択肢がどんどん狭まり、思考が偏ってしまいます。
まだまだ多感な中高生の時期だからこそ、いろいろな思考に触れておきたい。これは、すごく大事な話です。
3.自己肯定感を下げない
ぼく自身、夏の大会で負けたときは、「選手たちの高校野球を終わらせてしまった」と強烈な罪悪感を覚えます。でも、その日のうちに敗因を分析して、1年間の日々を振り返ったあとは、「よし、やろう!」という気持ちに変わっています。
大事にしてほしいのは、「自己肯定感を下げない」ことです。上げるのは難しいので、自分自身で下げないようにする。前向きに、「やれる!」という気持ちがない限り、物事を成し遂げることはできません。
ときには、自分自身の失敗を許すことも必要です。「おれはダメだ」と自分を責めないでくださいね。責めてしまうと、自己肯定感は下がるだけです。
4.進む角度を「1度」変えてみる
人生において挫折はつきもので、「人生を豊かにして、喜びを与えてくれるもの」だと思っています。挫折を経験したのなら、また挑戦すればいい。人生はその繰り返しです。
ここで覚えておいてほしいのは、多くの人がその挑戦をとても大きなものだと考えていることです。1度の角度でもいいから、自分の取り組みを変えてみる。いきなり30度も45度も変えようとするから、難しくなるんです。小さな1度が、1か月後、6カ月後、1年後には大きな違いになります。
中学生であれば、「毎朝自分で起きる」、野球部員であれば、「素振りを毎晩10本やる」でもいいかもしれません。
自分が続けられることに対して、コツコツと真摯に取り組んでみてください。そのうえで、最後は気合いと根性とガッツです。
中学生も高校生も、多くの夢と希望を持てる年代です。「自分はできる」と自信を持って、目標に突き進んでください。
▼須江航
仙台育英学園高等学校教諭 硬式野球部監督
1983年4月9日生まれ、埼玉県鳩山町出身。小中学校では主将、遊撃手。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務めた。3年時には春夏連続で記録員として甲子園に出場しセンバツは準優勝。八戸大では1、2年時はマネージャー、3、4年時は学生コーチを経験。卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。公式戦未勝利のチームから5年後の2010年に東北大会優勝を果たし全国大会に初出場した。2014年には全国中学校体育大会で優勝、日本一に。中学野球の指導者として実績を残し、2018年より現職。19年夏、21年春にベスト8。就任から5年後の22年夏。108年の高校野球の歴史で東北勢初の優勝を飾った。
書籍情報
『仙台育英 日本一からの招待』
定価:1870円(本体1700円+税)
2022年夏 東北勢初の甲子園優勝!
「青春は密」「人生は敗者復活戦」「教育者はクリエイター」「優しさは想像力」
チーム作りから育成論、指導論、教育論、過去の失敗談まで、監督自らが包み隠さず明かす!
『人と組織を育てる須江流マネジメント術』
<有言実行!夢の叶え方>
基準と目標を明確化 努力の方向性を示す
選手の声に耳を傾け、主体性を伸ばす
データ活用で選手の長所・短所を〝見える化”
日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある
高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ
【了】