“独り相撲”から“独り舞台”。九州地区歴代No.1の速球投手・梅野雄吾が挑む夏【2016年夏 各地区逸材ファイル2】
福岡県を代表する梅野雄吾(九産大九産)。力のある速球は彼の最大の武器だ。
2016/06/19
加来慶祐
敵なしのストレートで、昨秋、ノーヒット・ノーランを達成
「ついに150キロを超えたぞ」という報せが、3月の練習試合解禁後すぐの九州を駆け巡った。
福岡県を代表する剛腕投手・梅野雄吾(九産大九産)が「最低限の目安」と語っていた大台である。昨秋の時点で最速は149キロを叩いていたので、もはや時間の問題ではあったが、まさかシーズン開幕と同時にあっさりとクリアしてしまうとは……。
「150」という数字が厳しい冬を乗り越えるための原動力になったことは言うまでもない。それまでの自己最速は、好投手・濵地真澄との県最強右腕決定戦と目された秋の福岡大会準決勝、福岡大大濠戦で記録したものである。この大一番でノーヒット・ノーランを達成し、続く決勝も8回を投げ終えノーヒット投球を演じるなど、自慢の直球は(秋の時点では)敵なしのレベルに達しようとしていた。
ただ、秋まではやや下半身が突っ張り気味で、目に見えない上半身の力に頼ったフォームで投げていたのも事実。冬の取材で、梅野はその点を否定しなかった。
「たしかに立ち投げでしたね。もっと下半身を使えばいい球が行くのは分かっている」
そのため、11月からのオフは腰を切って体の軸を横回転させることを意識し、ひたすらキャッチボールや遠投を繰り返してきた。中でもキャッチボールは「一番身につくから」と没頭した。“腰を切る”イメージをキャッチボールで作り、その後にブルペンに入って試す。冬の間はほぼ毎日、この作業を繰り返すだけだったと梅野は話している。
体重も秋時点より4キロ増量させた。また、球速を上げるためにとデッドリフトにも取り組み、今では200を上げるほどの背筋力を手に入れている。
その結果、150キロを叩いた鶴崎工(大分)との練習試合では「真っすぐを張っている打者から、空振りを取れるようになりました。去年まではファウルになっても当てられることも多かったのですが、空を切れるようになってきたんですよね」と、ただ速いだけの直球ではなくなってきたことを実感するのである。
ストレートの最速は春の大会終了後の練習試合で154キロまで伸びた。これでとうとう九州地区最速の称号を手に入れたことになる。
高校生投手の154キロともなれば、剛腕並み居る現世代に限った話に収まりきれるものではない。九州の歴代で見ても155キロを記録した寺原隼人(ソフトバンク)に次ぐ数値で、あの今宮健太(ソフトバンク)が甲子園で記録した最速に肩を並べたのだから“歴史的スピード”と言っていいだろう。
たとえどんなに直球だけに張られた状況でも、先述のように空を切らせるだけの伸び(キレ)がある。また、さすがに九州トップと言われる投手だけあって、スライダー、カットボール、チェンジアップ、カーブといった変化球もすべてが超高校レベルだ。
とくにスライダーは直球と並ぶ武器に昇華してきた。秋までは斜めの軌道で変化の始まりが早く、調子によっては相手打者に見切られることも少なくはなかった。
しかし、今年に入ってからはベース近くで鋭く変化する縦軌道の動きを見せている。これが抜群の威力を発揮しており、追い込んでしまえばこのスライダー1球で充分。相手打者は打撃をさせてもらえない。