“独り相撲”から“独り舞台”。九州地区歴代No.1の速球投手・梅野雄吾が挑む夏【2016年夏 各地区逸材ファイル2】
福岡県を代表する梅野雄吾(九産大九産)。力のある速球は彼の最大の武器だ。
2016/06/19
加来慶祐
飛びぬけた才能に潜む精神的脆さ
課題は火を見るよりも明らか。精神面である。実力がチーム内で明らかに突出しているため、味方のミスに激しく動揺し、投球に悪影響を及ぼして試合をぶち壊してしまうケースが目立つ。“プツーン”という何かが切れたような音が、こちらまで聞こえてきそうなほどに分かりやすい男なのだ。
顕著な例は昨秋の九州大会、準々決勝の鹿児島実戦でのことだった。
梅野は試合の先頭打者を力のある直球で押し込み、ファーストフライに打ち取った。しかし、一塁手が落球し走者を出してしまった(記録は内野安打)。これでキレてしまった梅野は相手の4番打者・綿屋樹の適時打などで2点を献上。その後も制御を失った直球を狙い打ちされ、6回までに被安打13、6四死球、13失点(自責8)と大炎上。勝てば翌春のセンバツ出場がほぼ決まるという大事な試合で、ウイークポイントを曝け出してしまったのだ。
打者に対して直線的に向かっていくファイタースタイルの投手は、今では極めて珍しい。むしろ、小細工なしの真っ向勝負に胸のすく思いをするファンも少なくはないだろう。ただ、“独り舞台”はともかく“独り相撲”を決して許してくれないのが夏の勝負だ。この点は梅野自身も重々承知している様子である。
今年に入り、梅野は何か“事が起こる”とマウンドを外し、センターポールを見ながらふぅーっと大きく息をつくようになった。自分自身をコントロールするためだ。自分の気持ちさえ落ち着かせることができれば、あとは無敵の直球を叩き込むだけでいい。
春の福岡大会は3回戦で敗れたが、その後の福岡地区大会で優勝。5月の連休を挟んで体調を崩した時期もあったが、梅野の右腕は依然として圧倒的な実力を維持している。
万人に伝わる飛び抜けた才能と、万人に伝わる精神的な脆さ。両刃の剣であることは否定できないが、とんでもない切れ味を秘めた逸材であることだけは確かだ。