“バンビ2世”東邦・藤嶋健人、成長の証。「がむしゃら」から「クレバー」高校3年間の集大成を【2016年夏 各地区逸材ファイル3】
高校1年夏、闘志を前面に押し出す投球スタイルで一世を風靡した藤嶋健人。風貌に似つかわしくない“バンビ2世”の愛称も付けられたが、そんな彼も最上級生を迎えた。熱い闘志を心に秘め、程よい温度でファイナルステージに立つ。
2016/06/26
尾関雄一朗
クレバーな投球術で激戦区・愛知を勝ち抜く
地元の中日・中田宗男スカウト部長は、藤嶋の投球センスを高く評価している。
「1年生のときはがむしゃらだったけど、2年生、3年生と経験を重ねる中で、勝てるピッチングを心掛けるようになり、実際にそれができています。相手バッターや試合展開を考えて、力を抜けるところは抜きながら、駆け引きができていますよね。ランナーを出しても最後をしっかり抑えればいい、というように。常に接戦を想定しながら投げていて、ピンチでの投球の良さが光るタイプです。要所、要所で彼らしい球がくる。打者に向かっていくタイプだけれどクレバーさがあります」
藤嶋が“勝てるピッチング”を身につけてきたことは、夏の愛知大会を勝ち抜くにあたり大きな武器だ。愛知県は全国でも一、二を争う参加校数(昨年は189校)を誇り、大会終盤は連戦を強いられるなど日程がハードになる。全ての試合に万全の状態で臨むのは難しいが、だからこそ調子が悪い日でも試合をつくる能力がモノをいう。
11日の練習試合も“予行練習”としては上々だった。
春・夏通算5度の甲子園出場がある玉野光南(岡山)を相手に、状態が悪いながらも完投勝利。ストレートの球速はこの日、視察に訪れたスカウト陣(パリーグ2球団4人)のスピードガンで140キロに満たなかったが、失点はソロ本塁打1本のみで、2ケタ奪三振を記録した。
「夏の大会前の“追い込み”(強化練習)が始まり、前日までの2日間でかなり走り込みなどのトレーニングをしたので、今日は体がガチガチ で思うように動きませんでした」と藤嶋は振り返るが、「その分、リラックスして配球やコースを意識して投げました」と続けるとおり、卓越した投球術が光った。
ストレートが走らなくとも、それ以外の部分での芸当が身を助ける。この日は、投球術はもちろん、変化球も秀逸だった。特に、変化球の球種がネット裏から見ていて判別がつきにくい。
タテに落ちるスプリットは、ときどきツーシームのような軌道で右打者内側に切れ込んでくるから余計に厄介。さらに右打者外角にカットボールが決まり、打者を戸惑わせた。また話は本題から逸れるが、この日は2打席目にレフトへ高校通算47本目のホームランを叩き込み、スカウト陣を「見るたびに打つ」と唸らせている。
「調子の上がったり、下がったりはあるが、そういう調子の波も自分で分かってきて、調整ができています。夏の大会でも状態をいいところにもっていきたい」
同世代の誰よりも熱い舞台を経験してきた男は、燃え盛る闘志を抱きつつも、程よい温度で最後の夏を迎えようとしている。