東の藤平、西のドラ1候補は履正社・寺島成輝。「まとまり」の男が化けて、甲子園初出場なるか【2016年夏各地区逸材ファイル5】
高校生NO.1左腕投手という称号を持つ履正社・寺島成輝。これまで甲子園の出場がなく、全国的には無名だが、スカウトの間では評判の投手だ。
2016/07/03
谷上史朗
「最速148キロ」に潜むクリアできぬ課題
一方で寺島にはその活躍を語る記事の中にしばしば登場する「最速148キロ」もある。ファンの関心が最も向くところだろう。ちなみにこの148キロは昨年の夏前、四国遠征の練習試合で出したもので以降1年、更新はされていない。
「148」を表示したレクザムスタジアム(香川)はやや球速表示が出やすいと噂される球場でもあり、今年のシーズン前、本人と話す中で意地悪くその話題を向けたことがあった。すると普段から落ち着いた対応をする寺島は「そのあとの広島遠征でも45とか46は普通に出ていました」と静かな口調で、しかしきっちり主張をしてきた。
ただ、観戦を重ねてきた中で寺島の優れた能力にいくつも気づかせられながら、常に課題として感じてきたのは世間的には代名詞となっているストレートだった。
寺島の球質は音にするなら「ビュンッ」ではなく「ズバン」。
きれいな縦回転が効いた、打者の手元で勢いが落ちない球質というより、強い腕の振りのイメージ通りに打者の手元へ到達してくる球質。この点を寺島自身も自覚し、昨秋以降は球質アップを念頭にフォームの改善へ取り組んできた。
具体的には一塁側へ折れていた軸足の膝を打者方向へ押し込むように倒していくことで、それまで回り込むように踏み出されていた右足が投球方向へ真っ直ぐ出だせるようになった。すると体全体もスムーズな縦回転となり、「体が開かなくなって、指もボールにしっかりかかるようになった。去年までとは真っ直ぐが変わりました」という。
このニュアンスは春先の実戦登板前から春の近畿大会終了の時点まで変わらなかった。
ちなみに春の大阪から近畿大会の投球成績は26回1/3を投げ無失点。数字を見れば完璧だ。
しかし、スタンドから見た印象として、ストレートに関しては本人が口にするほどまでのスケールアップは感じ切れなかった。
春はストレートがどこまで通じるかを試しながら勝つことをテーマに、変化球の割合を極端に減らした試合もあった。そのため、ストレートで決めにいってもファウルで粘られるシーンが多くなったということもあっただろうが、三振で目立ったのはストレートをコーナーへ決めて奪う見逃し。空振りはなかなか奪えなかった。このあたりが夏にどう成長を遂げているのか。
変化球についてもまだこの先の成長に期待という段階だ。スライダー、チェンジアップ、カーブを軸に、他にも昨夏以降は様々な理由から封印してきたフォークやカットボールもある。ただ、本人が昨秋の時点で「寺島と言えば“コレ”と言われる変化球を身につけたい」とストレートの球質アップと共に挙げていた課題はクリアとまではいっていない。
やや厳しく書いてしまったが、繰り返すが好投手であり、今年の高校生投手のトップランクであることは間違いない。「まとまり」がこの先、大きな成長の土台となって投手寺島を支えていくイメージもしっかりと沸く。その上で、全国舞台に上ってこなかったことで逆にまだ見ぬ者への期待をマックスに膨れ上がらせた感じのある今の寺島評に軽く一言挟みたくなったのだ。
ともあれ、注目の男は最後の夏にどれだけのボールを投げ、何を残し、高校生活を終えるのか。これまでの寺島の投球からは常に余力を持って投げているようにも見えた。これも能力の高さゆえの印象だろうが、高校生活の最後に体の芯から震えるような場面が訪れた時、これまでにないボールを投げるのではないか、という期待もある。
例えば、それは先に挙げた1年の夏、そして初戦対決で話題になった昨年の夏、さらに高山優希(大阪桐蔭)と投げ合った2年の秋……。自身が登板し3連敗中の大阪桐蔭と4度目の対決が実現した時かもしれない(今春、履正社は大阪桐蔭に勝利したが寺島は登板せず)。もしくは自身18度目の誕生日と大会消化が順調に進めば重なる大阪大会決勝のマウンド、誰もが潜在能力を引き出される甲子園のマウンドに立った時かもしれない。
そんな様々な想像も楽しみながら、さて、大阪の夏。まとまりの男が投げるボールに驚かされてみたい。