昨夏8強に導いた左腕・高橋昂也(花咲徳栄)。寡黙な男が語るピッチングの「理想」と「現実」【2016年夏 各地区逸材ファイル7】
昨夏、甲子園ベスト8に進出した花咲徳栄。そのチームで試合途中に登板しては快投を続けたのが、現チームのエース高橋昂也だ。覇者・東海大相模との一戦ではスカウトたちに印象に残るピッチングを見せた。今春のセンバツでは不本意に終わったが、春先からの不調から脱し、目指すのは勝てるピッチングだ。
2016/07/06
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投げているときは自分が興奮している
左腕を思い切り振り、左バッターの内角に落ちる球で空振りを奪う。縦に落ちるスライダーだ。続けて外角にフォークを落とし、最後は外に逃げるスライダーでバットに空を切らせる。最速145kmのストレートはなるべく封印し、2種類のスライダーとカーブ、フォーク、ツーシーム、チェンジアップという多彩な変化球で打者を手玉にとっていく。
数十球を投げた後に1度マウンドから降りると、少し肩を休めてから再び登板した。今度は一転、「真っすぐに強くこだわってやってきているので、誰にも負けないようにと思っています」という強いボールを中心に、力で圧倒し始めた。
2つのパターンを使い分けたのは、当然意図的だ。
「ピンチの場面では空振りをとれる変化球で最初に行くと、2打席目では変化球が打者の頭に入っています。そこで相手の裏を突いて真っすぐを使えば、速く見せることができる。そういう配球に頭を使っています」
一つ一つの球が優れるのはもちろん、掛け算として投球力に昇華することができる。それは高橋にとって、投手本能ともいえる。
「投げているときは一番相手バッターとの勝負に燃えていて、自分が興奮しているときだと思います。持っている球種は全部フルに使って、バッターに的を絞らせないピッチングができればいいです」
心の内で燃えたぎると同時に、冷静な駆け引きで打者を打ち取っていく。そうした要素以外にも、高橋は勝てる投手の条件をいくつも備えている。
最たるものが、ピンチになるとギアを入れられることだ。
「ピンチになったときに『絶対に1点もやらない』という気持ちのスイッチが自分の中で入ると思います」
それはつまり、ペース配分ができるということでもある。
「抜くところは抜かないと、完投はできないので。抜いたときにはコントロールを重視して、いかに長打を打たれないかが重要になります。それが勝てるピッチャーか、そうではないかの違いだと思います」