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昔とは明らかに違う選手との関係。「スマホが教科書」の時代に早稲田実はどう信頼を築くのか?和泉実監督が通算10回目の甲子園へ

2025/03/15 NEW

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【写真:編集部】



「彼が入ってくれれば本当はいい」依然苦しむ前年レギュラー

 
 「三振が少ない川上がトップでいいのか。彼は非常に勝負強い面もあるので、点に絡むほうがいいのか。動かす場合には誰にトップを任せるのか。三澤(由和、新3年生)が入ってくれれば本当はいいんだけど、冬の間は怪我が多くて、依然として苦しんでいる。誰をどこに置くかで打線が本当の線になるのか、というものを考えるとともに、中村が降板したときや、投げない試合の置き場所も考えないといけない。おそらくは外野にもっていくと思うんですけどね」
 
 高校通算64本塁打を放った宇野真仁朗(現:福岡ソフトバンクホークス)らが抜けた打線を、和泉監督は「長打力もないし、束になってかからないといけない。そこは僕が知恵を絞らないと」と表現する。指導方法は変えなくても、低反発バットに合わせた野球が自然と求められる。
 

 
 余談になるが、宇野は低反発バットへ正式移行したなかで迎えた最後の夏で木製バットを使用している。試行錯誤を繰り返し、感覚的にもベストだという思いでたどり着いた宇野の結論に、和泉監督も「なぜ金属で打たないのか、などとは絶対に言わなかった」と振り返る。
 
 「本人に納得感がないのに、強制みたいな形でそうしても拒否反応を示されるだけなので」
 
 生徒たちとのこうした距離感もまた、低反発バットうんぬんに関係なく、和泉監督が指導で貫く鉄則となる。例えば中村は冬の間にスマートフォンを介してさまざまな情報を収集して、新球チェンジアップをマスターした。生徒たちのこうした姿勢を、指揮官はいっさい咎めない。
 
 「僕らが現役だったころとは、監督と生徒たちの関係が明らかに違う。今はスマートフォンからいくらでも情報を取れるし、フォームなどを送信すればチェックもしてくれる。逆にいえばあちらが教科書ですよね。ただ、高校野球は監督の力がすごく強いから、昔の感覚を押しつければ生徒たちも従う。でも、本当の意味で腹に落ちていなければ、信頼関係にも影響を与える。そうした状況を怖れているわけでも、もちろん野放しにしているわけでもないけど、答えが出ずに迷っているときには僕の感覚でアプローチするし、そういうときにこそ腹に落ちる。そのためにも常に生徒たちをしっかりと観察して、彼らに対する答えをそれぞれ用意しておかなければいけない」
 
 中村が音頭を取る形で、生徒だけのミーティングも頻繁に開催されている。和泉監督は「彼らが開催したい、と言いだしやすい環境を自分のなかで作っている」とこう続ける。

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