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「投手のスピードに興味がない」「誰を中心にという概念はない」千葉黎明・中野大地監督が目指す”ウチらしい野球”とは。創部101年で掴んだ初の甲子園 

2025/03/17

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【写真:編集部】



勝つための“動き”と“環境作り”

 
 「小枝監督もそういった野球を、特に走塁に対してすごくこだわりをもってやられていた。私も自分の経験のなかで、高校野球は守備と走塁がなければ勝てないと学んできたし、勝つための動きに加えて、勝つための環境作りが大事だという考え方にたどり着いた。動きとは例えばグラウンド上では攻守交代をしっかりやろう、常に仲間へ声がけをしよう、一塁までしっかりと駆け抜けようといった、テクニカルな部分以外のものも求めているし、もちろん返事や挨拶も含まれると選手たちにはいつも話している。環境をさらに細かく紐解いていくと、睡眠は取れているか、食事は大丈夫か、忘れ物はしていないかとか、試合に臨むうえで最高のパフォーマンスを出せる環境を作れているのかどうか、といった部分まで落とし込んでいますね」
 
 就任時からもっとも注力してきたのが、確固たるスタイルの確立。千葉黎明の文化とも置き換えられる守備と走塁は、創部から101年という歴史をもつ野球部の最大の強みになった。
 

 
 「強い相手と当たったときに、自分たちは守備と走塁で対抗する。選手たちの心に余裕をもたせてくれるというか、チーム全体の心を後押ししてくれますよね。甲子園を一番にもってくると、それがすべてになって、こちらの指導も間違えかねない。甲子園への初出場は確かにうれしいし、あの場所に対して僕自身、心が揺さぶられる部分もある。それでも、自分たちの野球を確立させようとずっと取り組んできた結果として、ついてきたものだと思っています」
 
 大会4日目の21日に行われる1回戦の相手は、智弁和歌山(和歌山)に決まった。これまでの公式戦と同じく、小枝さんの遺品として受け取ったハンカチをユニフォームの右のポケットに、タオルを自らが座るベンチの横、背もたれの部分にかけてプレーボールに臨む。
 
 「一緒に戦うというと恐れ多いですけど、困ったときの神頼み的な感じですね」
 
 照れくさそうに笑った指揮官は、監督として戻る甲子園への決意をこう語った。
 
 「悔いのないように、というのはありますけど、やはりウチらしい野球がしたいし、彼らがグラウンド上で躍動して、駆け回ってくれたら、と思っている。自分たちらしく、という気持ちにさせるのが私の仕事だし、もちろん勝ちたいけど、それを一番にもってこなくても大丈夫でしょう。そのためにも、自分たちの財産といったものが必要だったとあらためて思っている」
 
 独特の雰囲気を含めて、どのような状況になっても千葉黎明の選手たちはおそらく浮き足立たない。低反発バット時代の象徴ともいえる野球を、全国の高校野球ファンへお披露目するために。もっとも追い求めてきた心の部分を含めて、甲子園初陣への準備は完璧に整いつつある。

 

 
【了】

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