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「打てないなら…」甲子園初出場4強の浦和実は「すべてが手作り」。限られた環境で結果を出す辻川正彦監督の指導方針とは?

2025/03/28

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産経新聞社



「普通に構えても打てないから」ショート・橋口に授けた打撃指導

 
「普通に構えていても打てないから、お前はふた握り余らせる形からバスターを覚えろと。バスターからだったらバントもリズムよく決められるし、バッティングもしぶとくなるので」
 
 深谷には「打てないなら、バントをしっかりと決めないと」と要求してきた。深谷が自ら考え、弾き出した答えは木製バットとの併用。確実に走者を進めたい場面で打球を殺せる木製バットを使ってきた深谷は、なおも続く無死満塁で金属バットを手にして右打席に立った。
 

 
 絶対にミートしてみせる。深谷が抱いていた強い意思が、リードを4点に広げる一打になった。深谷をはじめ、チームに課してきた打撃練習を辻川監督は笑顔で振り返る。
 
「低反発バットに限らず、ちゃんと当てないといい打球は飛ばない。そのためには、バットを振る力をつけるのが大前提になる。そして、振る力というのは、バットを振って、振って、振り続けなければつかない。いくらウエイトトレーニングを積んでも絶対につかない」
 
 春の選抜出場が決まった直後。取材で訪れたスポーツ紙の記者に「このグラウンドで練習しているんですか、と驚かれました」と辻川監督は笑う。練習場の九里学園大崎総合運動場はさいたま市緑区にあり、同市南区の校舎から自転車で30分を超える移動時間を要する。
 
 もともとはサッカー場か陸上競技場を作る予定だったグラウンドは長方形。狭いためにフリー打撃ができず、打撃練習は5箇所に設置した鳥かごのなかで行う。打球の行方を確かめたい選手たちのために、できるだけ練習試合を組み、他校のグラウンドでフリー打撃に臨む。
 
 日々の練習メニューは基本的に変わらない。アップを兼ねた走塁から守備、打撃、ウエイトとすべてをこなす。ウエイトは日によって上肢、下肢、体幹などと分けるものの「走塁と守備、バットを振る打撃は毎日のように積み重ねるもの」という辻川監督の信念が反映されている。
 
 悩みの種もある。選手全員が午後3時15分に終わる6限目の授業まで受けて、ホームルームと掃除を終えてからそれぞれが練習場へ向かう。さらに毎朝のホームルームで課される英単語テストの結果が悪かった生徒は、居残りでテストを受けなければいけない。
 
 これには野球部だろうが何だろうが例外がない。午後4時10分にグラウンドに集まり、10分後から練習を開始する目標を掲げてきたなかで、辻川監督は思わず苦笑いを浮かべる。

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