「打てないなら…」甲子園初出場4強の浦和実は「すべてが手作り」。限られた環境で結果を出す辻川正彦監督の指導方針とは?
2025/03/28
産経新聞社
「周辺住民との約束で…」限られた時間と環境
「なかなか目標通りに始められないですね。グラウンド周辺の住民との約束で、練習ができるのが午後7時まで。11月以降になれば、4時半をすぎればもう暗くなってきますからね」
照明はあるものの、明るさがまったく足りない。練習中に「ボールが見えません」と声があがるたびに、選手たちへ「心で見ろ」と笑い飛ばしてきたと辻川監督が言う。
「最後は訳のわからない会話になっていましたけど、新聞記者の方に外野の選手たちが『ボールが見えないなかでノックを受けるときには、スイングや打球の音を聞いて判断する。そういう練習にもなっています』と言っていた。本当かなと思いながら、聞いていましたけど」
4-1で迎えた準々決勝の5回裏。聖光学院の先頭、6番・石沢琉聖(3年)が流し打った打球が三塁線を抜けた。しかし、左へ切れていく打球に素早く追いついたレフトの佐々木悠里(3年)が、セカンドへストライクのボールを返して石沢をアウトにしている。
浦和実は対戦相手のデータを念入りに分析し、逆方向へ切れていく打球を放つ打者を迎えた場面では、レフトとライトが思い切りライン際に寄るシフトを敷く。事前の準備と、薄暮のなかで自然と鍛えられた打球に対する判断が、ピンチを未然に防いだ場面だった。
話を練習場に戻せば、2月上旬に照明30基が発光ダイオードに付け替えられた。照度計で10倍の明るさになった環境に、辻川監督も「暗くなっても内野ノックができる」と喜んでいる。
「けっこう高いお金がかかったけど、校長先生にお願いしてやっていただきました」
浦和実には選手寮がなく、全国から有望選手が集まってくる環境にない。部員の全員が埼玉県内の自宅から通っている。もっとも遠方に住んでいる捕手の野本大智(3年)の場合、電車を乗り継ぎ、同校の最寄り駅となるJR南浦和駅に到着するまで片道で約50分を要する。
辻川監督から寄せられる厚い信頼のもと、野本はカウント球、誘い球、釣り球、見せ球、勝負球の5種類に緩急、対角線、残像、奥行きの要素を加えた「9カ条」を打者や状況によって融合。巧みなリードで石戸颯汰(3年)、駒木根琉空(3年)の両左腕をけん引している。
聖光学院戦で同点に追いつかれた7回裏から登板。4イニングを無失点に抑え、1回戦からの連続無失点を18回に伸ばした変則投法の石戸に対して、辻川監督はこう言及している。