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「スーパー1年生」と騒がれて6年。愚直な田村伊知郎(立教大)が気づいた”適当”の大切さ

報徳学園1年時の夏の甲子園でベスト4入りを果たし、当時スーパー1年生と騒がれた田村伊知郎(立教大)。大学に入学しても苦しい日々が続いた。

2016/09/17

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高木遊



今春、ブレイクした理由

 そんな田村が、今春一気にブレイクを果たした。リーグ戦途中から1回戦の先発を任されると、チームの最終カードで「勝ち点を挙げたほうが優勝」となる明治大との対戦では、惜しくも1勝2敗で優勝はならなかったが、3試合連続の先発を任され18回2/3を投げ6失点と試合を作った。
 
「昨年までの田村は荒れ出すと止まらなかったのですが、この春は悪いなりにもゲームが作れるようになりました。澤田圭佑(4年・大阪桐蔭)を抑えで使うという考えと球数が少なかったこと(3試合平均約77球)もありますが、最も体力と気力が充実していたので彼に託しました」と3連投の経緯を溝口監督は語る。
 
 では、なぜ周囲や自らが描く理想に苦しんだ田村が、どんな時も長所と話す「腕を振る」投球を貫けたのだろうか。
 
 田村の2年時から指揮を執る溝口監督は「もともとよく練習して、よく考える子でしたが、良い意味での適当さを意識できるようになったのではないかと思います」と話した。
 
「適当」というと、学業も優秀で、文武両面で愚直な田村には似つかわしくない表現のように思えるが、田村自身は次のように話す。
 
「大学に入っていろんな知識が入るようになって、何でも頭で処理しようとしてしまう部分がありました。でも、そういうことを知りながらも、“プレーする時は考えないでプレーする”ようにしました。適当という表現って聞こえによっては難しい表現ですが、良い意味での適当を実践しているつもりです」
 
 こうした思考法を持つことで、ほとんどの球種は最速150キロのストレートとスライダーだけだが、どんな場面でも腕が振れ「それがなくなったら投手として終わり」とも話す攻めの姿勢を貫くことができた。
 
 そして、それは侍ジャパン大学代表の守護神を任された日米大学野球でも変わらなかった。気持ちを前面に出したストレート中心の投球で第1戦を1イニング、第2戦を2イニング、パーフェクトに抑え試合を締めた。優勝決定戦となった第5戦で田村は痛恨の同点満塁弾を打たれたが、それを引きずることなく後続を斬り、チームのサヨナラ勝ちに繋げた。
 
 同点本塁打を浴びた場面でさえも「あそこでスライダーを投げておけば三振だったかもしれない。でもその選択を後悔するのではなく、ストレートを磨いて、“どちらを投げても正解”となるようにしていきたいです」と前を向く。以前の周囲や自らの理想に苦しんだ田村の姿はもうどこにも見当たらない。
 
 最後の秋。難敵揃いの東京六大学リーグで、田村はどんな場面でも堂々とマウンドに立ち続けることだろう。

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