「お金じゃない!」豪州プロ野球を支える日本人と、豪州からアメリカを目指す日本人
オーストラリアプロ野球リーグ(ABL)の国際渉外部長を務めるデニー丸山氏は、日本とオーストラリアの野球界をつなぐ架け橋となっている。そしてそんな丸山氏を頼りに、ABLからアメリカでのプレーを目指す日本人投手がいる。
2015/01/14
Satoshi Asa
アメリカでのプレーを夢見る日本人
名門天理高校時代から抱いていた「いつかプロへ」の思いは、大学進学後、いつの間にかなくなってしまった。
「僕自身が一番悪いんですけど」
入部した野球部には高校時代の緊張感は見られなかった。自らを練習で追い込もうとする後藤を冷やかすサークルのような雰囲気に、いつの間にか後藤自身ものまれていった。度重なる故障がこれに追い打ちをかけた。
しかし、卒業後、休ませていた肩が治ると、せっかく正社員として入社した会社に辞表を書いた。
トライアウトは決して絶好調ではなかったが、2012年、「左の中継ぎが欲しいんや」という西田真二が監督を務める四国アイランドリーグ・プラスの香川オリーブガイナーズに入団した。
あれから3年。結局ドラフトにはかからなかった。
「2年目シーズンは、自分をかなり追い込んだんです。はじめは筋肉がつきすぎたのか、なかなかボールが走らなかったんですけど、シーズンに入ると、リリーフなんで毎日投げる準備するでしょ。だからトレーニングの量が減ったんですが、それでいいあんばいに筋肉が落ちたのか、ボールがいきだしたんです」
シーズン中盤、後藤は中継ぎエースの名をほしいままにする。この年、2013年シーズンに残した防御率は1.62。それでもNPBからは声がかからなかった。
「だから、一旦、そこで辞めようと思ったんです」
しかし、周囲の「自分が納得できるのか」の声に、まだ自分が完全燃焼できていないことに気付き、もう1シーズンプレー。そしてシーズン終了後、丸山の門を叩いた。一本気な男は、退路を断つためオリーブガイナーズには退団の意向を伝えた。
「そりゃ、行きたいけど、年齢的にNPBは苦しいと思います。だから、今はアメリカでプレーしたいですね。ABLにはそのために来ました」
MLBのスカウトも観戦に訪れ、アメリカの独立リーグでもプレーする選手の多い豪州でなら、次のステップにつながるのではないだろうか、という思いで、後藤は、真夏の豪州で汗を流している。
ABLの週給は250ドル。最低時給が2000円を超えるという豪州では、ワーキングホリデーのアルバイトより薄給だろう。
「金じゃありませんから」
後藤だけでない。ABLでプレーする選手が声をそろえて吐くセリフである。彼らにとって、「その先」の夢は、夢で終わることがほとんどだ。そのことは、彼ら自身も、そして丸山もわかっている。
かつて、夢の続きを探して豪州の地を踏み、汗を流した日本人選手たちは今、「自分探し」を終え、それぞれの道を歩んでいる。その中には、NPB球団の職員として野球に携わっている者もいる。
「全部が全部うまくいってるわけじゃなんだけどね」
そう丸山は言うが、彼がまいた無数の種は、豪州野球という肥しを吸収して、確実に実っている。