中学生にとっては”大きく、重たく”――軟式野球はどう変わる? 次世代ボール、誕生の背景
12月1日、都内のホテルで全日本軟式野球連盟と野球ボール工業会の主催による記者会見が行われ、軟球の新意匠について詳細が発表された。
2016/12/17
大利実
次世代の軟球は2種類、6つの特徴
1.A・B号→M号 / C号→J号
現在、A号は一般(高校生以上)、B号は中学生が使用しているが、この区分けをなくして、中学生以上の使用球をM号とする。つまりは、中学生以上は大人と同じボールを使うということになる。
MとはMAJORの頭文字を取ったもので、「日本で生まれた軟球が世界にはばたくように」という願いが込められている。学童用のC号は、J(Junior)号となる。
2.大きく・重たくなる
M号とJ号の規格は表1のとおり。一番の大きな違いはB号→M号で直径が約2ミリ大きくなり、重さが約3グラム増していることだ。C号→J号を見ても約1ミリ大きく、約1グラム重くなる。
サイズ変更の理由のひとつとして、記者会見時に示されたのが1951年時と現在の平均身長・体重の伸び率である。表2のとおり、小学生、中学生ともに身長・体重ともに伸びていることがわかる。
じつは中学生用の軟球は、規格が全国統一された初代の菊型ボール(1938年)から70ミリ、135グラムであり続け、サイズが変わったことが一度もない(小学生用は1950年の2代目から68ミリ、128グラムのまま)。
「身長・体重の伸びを見ると、中学生はA号の大きさ・重さでも対応できるのではないか」と全日本軟式野球連盟専務理事の宗像豊巳氏。体の成長に合わせて、サイズ変更に着手した。
3.低バウンドを実現
軟球=高く弾むというイメージを持つ人が多いだろう。軟球の大きな特徴といえるが、バウンドが高いゆえに、内野手が腰高になり、硬球の低く速いゴロに慣れるのに時間がかかるといわれてきた。
中学軟式野球から高校硬式野球に進むことを考えると、軟式出身の投手は強豪でも通じているが、野手は圧倒的に硬式出身者が主力を占めている現状もある。
そこで、次世代ボールではゴムの配合を変えることによって、低バウンドを実現。A号→M号の「反発高」を比べると、反発を10センチ抑えることに成功した。
「軟式野球競技者・愛好者が各ステージにおいて軟式・硬式の相互移行を図りやすくし、野球文化の維持・拡大に寄与したい。『軟式だから』『硬式だから』という技術の差をなくすことにつながると期待している」(宗像豊巳氏)
硬式野球を終えて、大人になってから軟式野球に戻ったときにも違和感なくプレーしてほしいという思いもある。
4.飛距離アップ
一方でボールが重たくなり、バウンドが抑えられるとなると、「飛距離が出ないのでは?」と考えがちだが、そうではない。むしろ、データ上は新軟球のほうが飛ぶ。
その理由のひとつが、圧縮荷重を上げて(硬くして)、変形エネルギーを押さえたことだ。軟球はゴム製のために、バッティングのインパクト時にどうしてもボールがつぶれてしまう。この変形を戻すためのエネルギーが、距離のロスにつながっていた。
直径の20パーセントの力でつぶした際、M号はA号より25パーセント、B号より15パーセント平均反発力が大きく・硬くなった。
「衝突後、M号は変形量が小さく、球状に戻るのも早いため、空気抵抗とエネルギー損失が小さい。ゆえに飛距離向上となっている」(配布資料より)
もうひとつがディンプルの工夫だ。現行ボールは全表面積に対するディンプル面積占有率が70.2パーセントだったが、次世代ボールは80.1パーセントに増えている。
「全表面積のうちディンプルの占有率がおよそ80パーセントのときが、ボールが安定して飛ぶ」という研究データあり、この割合となった。現在の軟球は「外野フライが揺れる」という現場の意見もあったが、次世代ボールでは安定した軌道が実現する可能性がある。
ディンプルの形は、「ハート」にも「桜」にも見てとれる。はじめから意図したものではなく、80パーセントという数字を実現するために結果的にこの形に落ち着いたようだ。
「これからの女性が使いやすいようなもの。『ハートマーク』と読んでいただいていいかなと思います」とは宗像氏の言葉。人口が増えつつある女子野球に対するメッセージも含まれている。
5.縫い目の工夫
重たくなることで、「投げにくくなるのでは?」と心配するが、フィールドテストの結果を見ると、「軽い」「投げやすい」という意見が多い。
これは、縫い目の数を88個から92個(硬球は108個)に増やしたこと、硬球と同じ「入の字・人の字」(縫い目がやや上がっている)を取り入れ、縫い目に引っかかりやすい構造になったことが関係している。
6.衝撃度は1パーセントアップ
最後に気になるのが、重く硬くなったことでのケガだ。部活動の場合はほかの部活とグラウンドを共有することが多く、ボールが当たることでのケガも心配される。
ここに関しては、野球ボール工業会会長の柳田昌作氏(ナガセケンコー株式会社代表取締役)がデータを用いて紹介した。
「硬式を100とした場合、M号の衝撃値は25~33パーセントで、A・B号の26~32パーセントから1パーセント程度のアップにとどめることができています(*日本車両検査協会に測定を依頼)。子どもたちへの影響は、現在のボールとそれほど変わらないということができます」
中身が空洞の軟球ゆえに、重く硬くなっても硬球ほどの衝撃値はない。もちろん、ケガがゼロになることはないが、軟球のひとつの特徴である「安全」は次世代軟球でも守られている。