大阪桐蔭・西谷浩一監督が高校野球で指導する理由。甲子園が遠かった球児時代…
西岡剛、中村剛也、中田翔、平田良介、浅村栄斗、藤浪晋太郎……現在、プロで活躍する選手を多く輩出している大阪桐蔭高校の西谷浩一監督。彼らを指導した西谷浩一監督は、時代や社会環境がどんなに変化しても、「高校球児の甲子園に対する想いは全く変わらない」という。(『ベースボールサミットVol.3 』より)
2015/01/24
Shirou Tanigami
「モノを頼まれる人間になれ」
――今は社会全体としても、教育、指導という部分が非常に難しい時代になっています。大阪桐蔭のような強豪を率い、人づくりの部分と勝利を追求するバランスといったものはどのように考えていますか。
でも、最終的には人なんです。人間力と言いますか、そこが上がってこないと野球も継続的な結果は出せないと思います。その中で、指導ということでは、あまり信じてもらえないかもしれませんが、僕は、一人ひとりにかける時間はどのチームにも負けていないと思っています。ウチは学年20人前後でそれほど人数がいないということも大きいですが、メンバー、メンバー外に関わらず、一人ひとりにかける時間は多い。選手と触れる中で一人ひとりの考えを知り、こちらの思いも伝えていきます。
――選手と深く関わるという点で寮生活は大きな要素でしょうか。
極めて大きいですね。僕も結婚して寮は出ましたが、今も近所に住んでいるので夜はよく寮で選手と話をします。グラウンドとは違い、お互いジャージ姿で部屋でしゃべるといろんな話が出てきますし、選手の中への入り方も違う。ウチは本当に寮生活のメリットを最大限に活かして、ここが選手指導の基本になっています。生徒同士も24時間、生活を共にする中でお互いを知り、思いやる心も芽生え、それがチームの一体感となってグラウンドにも返ってくる。
――生活を一緒にしていると、野球の技術、能力とは別のところで、生徒間でも違う関係性や見方も生まれてくるのでしょうね。
ずっと一緒にいますからね。野球は一生懸命だけど寮生活はいい加減なヤツ、指導者の前だけちゃんとしているヤツ……。こういう選手はすぐ見抜かれますから、深い信頼は得られない。誤魔化しがきかないわけです。そういう中ではよく生徒に「モノを頼まれる人間になれ」ということも言います。数いる中でモノを頼まれるというのは信用されているから。つまり、アイツがおらな困るという人間になれ、ということ。もし全員がそういう人間なれば、これはもうそれだけですごいチームになると思います。
――これも野球につながってくる、と。
実際、ウチでもメンバーには入れないけど、上級生でメチャクチャ偵察がうまいという選手がいたりします。そうすると大会の前に、僕が言うより先にメンバーが「お前見てきてくれ」と頼むんです。
抜群の観察力を持った選手もいて、例えば、「A投手はブルペンでカーブを10球投げましたが3球しかストライクが入っていません。カーブの精度は低いです」と分析したり、野手についても「B選手だけ試合前のキャッチボールで最後まで塁間しか投げていませんでした。どこか痛めている可能性があります」と言ったり。仲間からも信頼され、本人もそれに応えようと動いてくれる。試合会場とかに行くと例えば中学時代の友達や関係者に会うかもしれない。「お前メンバー入ってないんか」とか言われるかもしれない。でも、そんなことよりチームのために動く、こういう選手が多くいるときは強いです。
――確かに、大阪桐蔭で感じるのは、高い目標を持って集まってきた選手が例えばメンバーを外れても、切り替えてサポートに徹する。春夏連覇時のチームにもそのあたりを感じ、強さの理由に触れた気がしました。
野球選手としての能力はもちろんですが、人間がしっかりできているチームは勝つかどうかはわからなくても負けにくい。ここは確かだと思いますし、野球の結果を求めるためにもチーム力、人間力を求めていかないといけないと思っています。
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西谷浩一(にしたに・こういち)
兵庫県宝塚市出身。報徳学園高から関西大学へ進学。卒業後は母校・報徳学園高や大阪桐蔭高でのコーチを経て、98年秋に監督に就任した。一旦コーチとなり、04年から再び監督として指揮をとる。08年夏の甲子園では浅村栄斗(現埼玉西武ライオンズ)を中心とした強力打線で自身初、同校としては2度目の全国制覇を達成。12年の春のセンバツでは藤浪晋太郎(現阪神タイガース)、森友哉(現埼玉西武ライオンズ)を中心に初のセンバツ制覇。同年夏の甲子園では史上7校目の春夏連覇を達成した。また、2014年夏の甲子園で全国制覇。今年のセンバツは夏春連覇がかかる。