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0対91にも溢れる希望。「きっかけは不登校」監督自ら発足した”日本で3番目に弱い”野球部が歩む道

甲子園球場で第89回センバツ高等学校野球大会(センバツ)が開催されているが、高校球児たちの春は全国大会だけではない。各地区では、県大会の予選が行われている。

2017/03/31

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豊田毅監督



強豪校に“敵”として認められた

 三重県の南勢地区大会 第一次予選、宇治山田商業高校との試合が26日に山商グラウンドで行われた。この試合は、宇治山田商業に91-0で完敗した。
 
 英心は初回に先制を許す。明らかに強い相手と分かって試合に臨んではいたものの、初回から8点と大きくリードされ、投手は落ち込んだ様子だったようだ。その後も県内で5本の指に入る強豪校は、さらに2回には31点、3回には41点と得点を重ねていく。
 
 4回1死途中、英心にハプニングが起きる。宇治山田商の打球がピッチャー返しで投手を襲った。投手は飛んできた打球を避けることが多いが、英心の投手は違った。自分の身体を打球に近づけ、強引に取りに行ったところ、みぞおち付近に当たってしまう。この時点で200球近く投じていたため、監督は交代を提案するも、投手が拒否した。
 
「大事を取って代えさせようと思い交代と言ったが、投手は『投げさせてください。どうしても投げ切りたい』と言うので『じゃあアウト2つ取ろう』と声をかけた」
 
 このとき、投手の周りには審判、チームメート、相手チームの監督が駆け寄り、続投が決まった瞬間はベンチにいた宇治山田商の選手全員が立ち上がって拍手を送ったという。その後は何とか投げ切った。英心はホームまでが遠く、本塁を一度も踏むことなく敗れてしまった。
 
 試合後、監督は「無理させてごめんね」と投手に謝ったところ「最後まで投げさせてくれてありがとうございました」と涙ながらに感謝の気持ちを伝えられたそうだ。選手が悪いわけではなく私の采配が悪かったと、監督は反省している。
 
 大敗を喫したものの、監督はこの試合で嬉しいことが2つあったという。
 
 ひとつは、選手たちがどんなときでも諦めず、逆転したいという気持ちで挑んでいたことだ。
 
「私たちのチームは、大量失点が始まったら『1つずつ1つずつ』と声を出すという風に決めています。結果的には負けましたが、30点取られたときに『まだまだこれから』、90点を超えたときでも『ここから逆転していこう』と選手たちから自然と声が出ていたことが嬉しかった」
 
 もうひとつは、その諦めない心をみた宇治山田商が手を抜かず戦い抜いてくれたことだ。
 
「大差がついたら普通、バントなどでアウトになるじゃないですか。でも宇治山田商さんは違った。大差がついてからもスタンドまで打球を飛ばし、全力でぶつかってきてくれた。たぶん、ピッチャーの球も四球ばっかりとかとんでもないところに投げていて『終わらせるしかない』といったものではなくて、ストライクもちゃんと入って組み立てられていたからじゃないですかね。試合後、選手たちには『最後まで全力で戦ってくれたことは野球人として認められた、名誉なことなんだよ』と教えました」
 
 どんなに点差が離れても、監督が常々教えてきた“全力で取り組む精神”を最後まで体現し、諦めずに挑んだ姿を目の当たりにした宇治山田商にも響いたのだろう。監督の目に選手たちの雄姿はしっかりと焼き付いている。

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