「ナックル姫」と呼ばれ約10年…。“男社会”で挑み続ける吉田えりの現在地
「ナックル姫」の名前で一躍有名になった吉田えり投手。今でもその名のおかげで球場で声をかけられたり、メディアに出演するなど良い点もあったが、プレーよりもその名前が独り歩きしすぎて戸惑うこともあった。思うようにプレーできない日々が続いているが、現在も女子プロ野球ではなく独立リーグでプレーをし続けている。
2017/06/01
阿佐智
女子同士だから分かり合える絆
それでも、吉田は野球を続けた。男子チームの一員としてプレーしたのは、他に選択肢がなかったからでもある。しかし、この頃は、意識の上で、性差を強烈に意識し始めるだけでなく、体力面においても、男女差が開き始める年代でもある。
「1年のころは、同じくらいの背だった子が、3年になるともう全然違いますね。トレーニングの時は特に、差を感じるようになりましたね」
吉田は高校進学と同時に、女子クラブチームに籍を置いた。しかし「その先」を考えると、見えてこなかった。彼女にとって独立リーグでプレーすることは、プレーを続けるための必然だったのだ。
彼女が独立リーグに挑戦したその翌年には、女子プロ野球が誕生し、今ではそれなりに市民権も得ている。この新しいプロ野球は吉田の目にどう映っているのだろう。彼女はこう答えてくれた。
「プレーしてみたい気持ちはあります。去年、代表チームのセレクションに参加したんですよ。なんだろ、独立リーグでは味わえない、女子選手同士だから分かり合える絆の強さみたいなのを感じましたね」
しかし、それはもう少し先のことのようだ。
独立リーグと言えどもプロ、その先は日本のプロ野球(NPB)やメジャーリーグにもつながっている。吉田は、今でも自分の目標は、NPBやメジャーでプレーすることだと言い切る。さらに上を目指すのはアスリートとしての本能のようなものだろう。
BCリーグに来てもう5シーズン目だが、いまだ勝ち星はひとつだけである。今シーズンも現在まで2試合の登板にとどまっている。納得のいかないまま次のステージには進めない。まずは栃木という新天地で勝ち星を挙げることが第一歩となることを、彼女自身が一番分かっている。それが茨の道であっても、自分で選んだこと、後悔は全くない。
「自分の好きな野球を続けることができていることは本当に幸せだと思います。だから他の女の子と自分を比べることはないです。中学や高校の同級生には、もう結婚してお母さんになった子もいますし、兄も結婚してもう子供がいるんですけど。そういうのを見ると、私も幸せを分けてもらいますね」
最後に今一度聞いてみた。「ナックル姫」と呼ばれることについて。
「そろそろ『ナックルボーラー』と呼んでほしいですね。だってその方が格好いいじゃないですか」
そう答える吉田の表情は、アイドルではなく、確かにアスリートのそれだった。