広陵、怪物・中村だけじゃない厚い選手層。“自分で考える”野球で、心ひとつに頂点を【全国高校野球】
2017/08/23
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10年前の夏、あと一歩のところで優勝を逃した広陵は、2007年以来の決勝進出だ。当時、8回まで4-1とリードしながら、佐賀北の反撃により4-5の逆転負けを喫した。甲子園全体が佐賀北を応援し、審判のジャッジも揺れるなど、物議を醸した決勝戦だった。あれから10年、再び優勝をかけた舞台に立つとは、何ともロマンがある。
そんな広陵の顔は、大会前に「小林2世」と呼ばれた中村奨成捕手。スローイングの速さから先輩・小林誠司捕手(巨人)になぞらえられた。しかし、大会が始まると、初戦の中京大中京戦の2本塁打に始まり準決勝までに6本塁打を記録。それまで清原和博氏が持っていた1大会の本塁打記録を塗り替えた。もはや「小林2世」と呼ぶものはいない。「怪物」スラッガーだ。
注目すべきは中村だけではない。広陵の特徴は試合運びの巧さにある。
選手は個々の役割を理解し、中井哲之監督が適材適所の起用を見せている。広陵は強豪私学として知られるが、指揮官は「野球しかしない人は嫌い」と言うほど人間性を大事にしている。
全体練習の時間は短く、個別練習で課題をクリアしていく。「自分で考える」知性を育み選手が主体的に動くことができるチームだ。ミーティングは選手だけで行い、中井監督は後から報告を受ける。
そのため選手は監督のサインを確認する前に、何をすべきか理解している。07年の選手権で中井監督が熱中症を患ったが、選手だけで勝ち上がれたのは、考える力を持っているからに他ならない。
今年のチームは初戦から多くの選手が起用された。これも持ち味の一つだ。「同じレベルの選手がたくさんいる」と指揮官が言うように、途中出場の背番号2桁の選手が試合の随所で活躍している。
1回戦の中京大中京戦では、背番号13の佐藤勇治が代打で途中出場すると、試合終盤には貴重な本塁打を放った。2回戦の秀岳館戦ではその佐藤を5番に起用。1、2番を入れ替えるなど、幅広い選手起用で勝利をもぎ取った。
先発投手もエースナンバーの平元銀次郎だけでなく、背番号10の山本雅也も起用する。ベンチ入りメンバー全員で戦っているのだ。佐藤は「中心選手は変わらないんですけど、調子次第で監督が判断します。練習試合からいろんな場面で起用してもらったので、その経験が大きい」と話す。
激戦ブロックを勝ち抜けたのは、選手層があってのことだ。中村が中心であることに変わりはないが、全員が心を一つに戦う。