花咲徳栄、2017年日本一のチーム育てた指揮官“野球は人生の修行”。選手がブレずに輝く理由
花咲徳栄は、埼玉県勢として初めて夏の甲子園優勝を果たした。チームを率いたのは、今大会で9回目の甲子園出場となった岩井隆監督だ。強力打線と安定した投手陣を育て上げ、中里浩章氏の著書『高校野球 埼玉を戦う監督たち』からは、高校野球の監督と教育者としてのバランスの良さがうかがえる。取材は2017年1月。
2017/08/24
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野球はすべてではない
ここ数年、花咲徳栄には勢いよく突っ走りそうな予感がある。若月健矢(オリックス)や大瀧愛斗(西武)、高橋昂也(広島)、岡崎大輔(オリックス)とプロ選手が続々と生まれ、学校名と水色を基調としたユニフォームも甲子園でお馴染みになってきた。
2016年夏までの3季連続甲子園出場を経て、岩井の心境にも少し変化が訪れている。
「昨夏の甲子園では高橋の重心移動が物足りなくて軸足の粘りもやや浅かったんだけど、後になって甲子園のマウンドが低くて傾斜が緩やかなんだと知った。8度目の出場で初めて分かったんだよね(苦笑)。まだまだ知らないことがたくさんある」と話す。
さらに、甲子園で勝つには破壊力が必要なのかなと思い始めてきたと続ける。
「やっぱりバッターはね、手首と握力の強化だわ。ピッチャーが投げる球が140キロだったとしても、そこに伸びとかキレがプラスされる。じゃあそれを出すのってどこかと言ったら、ヒジから先でしょう。手首を利かせて、最後に指先でボールを切る強さ。バッターも同じで140キロに対応できるスイングスピードにプラスして、手首と握力による払いや押し込みが必要なんだよ」
勝負にもこだわるし、技術も追求する。その姿はどこか、恩師の稲垣人司に似てきた感もある。
そしてもちろん、理論をもとにした徹底力、目に見えないまとまりや展開の巧さで多少の力の差は引っくり返せる。そんな自信も出てきた。
一方で興味深いのは、どんなに野球部が活躍しようとも、県内で「花咲徳栄=野球学校」というイメージがまったくついていないことだ。岩井は「それでいいんです」と語る。
そもそも、野球がすべてだとは思っていない。
発達心理学の世界で言えば、高校生は青年期。子どもから大人にちょうど変わっていく時期で、遊びたいけど部活動をやらなければいけないとか、そういった欲求と葛藤の狭間で生きているのだという。
それは決して悪いことではなく、悩み苦しむからこそ大人になっていく。そんな時期にあまりにも野球、野球となり過ぎていると、その先のステージに進んでもまだ子どものままでいて自立できないんじゃないだろうか。
「ウチは道徳の学校。だから花咲“徳”栄なんですよね」と岩井は言う。