“大阪桐蔭時代”が幕開けした10年前の夏。強さの背景にある育成と勝利の両立、名将の後悔から生まれた変革
第100回全国高校野球選手権記念大会が8月5日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する。10年ごとの節目には、次代をつくるドラマが生まれる。2008年の第90回大会は、今夏の優勝候補筆頭に挙がる大阪桐蔭が17年ぶりに優勝を飾った年だった。
2018/08/02
Hideaki Ujihara
個の力をはぐくむ時期に「チームワークは必要ない」
これは意外と盲点になっている。
というのも、高校野球の公式戦はほぼトーナメント制だ。トーナメント戦に勝つチーム作りをしようとした場合、攻守において緻密さや洗練された戦術が必要になってくる。守備はエラーが少なく、攻撃は送りバントや進塁打など作戦をきっちりと遂行しなければいけない。
一方で、そればかりに固執していると選手の個性は育まれない。トーナメント制で勝とうと思えば思うほど、弊害は生まれる。選手の個性を消さざるを得ず、選手としてのスケールを小さくする可能性もある。
大阪桐蔭は1年間のスケジュールの中で、トーナメントに勝つための練習と個性を育む時期をしっかり分けているのだ。
シーズンオフ期や大会から遠い時期は、個の力を上げる。
特別な練習をするわけではない。同じ練習メニューの中でも、個々が目指しているものが異なり、それぞれがチーム力とは別のところに重きを置いて練習に取り組むのだ。
西谷監督は力説する。
「個の結集がチームじゃないですか。小さな粒が集まったら、こぢんまりしたチームにしかならないので、いかに一人を大きくできるかということです。野球は団体スポーツですけど、個別性が高いのが特徴です。なぜなら、絶対にみんなに打席が回るからです。個別性が高い競技であるので、チームワークと個性の両方の要素を持っていないといけない。オフなどの個を高める時期に、みんなが同じ練習をしているようではいけないということです」
西谷監督は、個を高めようという時期には「チームワークは必要ない」と選手たちに伝えているという。例えば、ある練習をさぼっている選手がいても、誰も注意しようとはしない。自分の目標達成のために、自分に何が足らないかを見つめて取り組む時期だということを各人が認識しているのだ。
「他のやつが何をやっていても放っておけ、この時期はチームワークが悪くなっていいくらいに思っています」と西谷監督は言う。
とことん個を高めて、時期が来たら、組織と融合させる。西谷監督はそうした2段階のチームづくりをすることで育成と勝利を両立させてきたのだ。