日曜劇場『下剋上球児』原案 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#6 なぜこの高校が甲子園に出られたのか?
2023/10/10
菊地高弘
下剋上を夢見るすべての球児の願望を具現化したチーム
高校野球には古くから判官贔屓の文化がある。力量の劣るチームが強豪に善戦すれば、スタンドのファンは露骨に「番狂わせ」を期待した歓声や拍手をグラウンドに向ける。そんな波乱愛好家にとっても、近年の高校野球はエリート軍団が勝ち上がる、食い足りない大会に映っていたのかもしれない。そして多くの人々が白山の甲子園出場に驚き、歓迎の声をあげたのは、時代の流れに対する痛快なカウンターパンチに見えたからではないか。
ただ、白山が「高校野球のあるべき姿」かといえば、私にはわからない。〝高校野球観〞は人それぞれなので、そう思っている人を否定するつもりはない。ただ、15歳にして厳しい環境に身を置き、高いレベルを目指して鍛錬の日々を過ごすエリート校の球児に対して「君たちは高校野球のあるべき姿ではない」と誰が言えるのだろうか。だから個人的には、高校野球界にはびこる判官贔屓の文化は、あまり理解ができなかった。
だが、白山の奇跡はその内実を知れば知るほど、もう「あるべき姿」なんかどうでもいいと思わせるエネルギーがあった。取材を重ねるうちに、私のなかに「このとびきり面白い物語をひとりでも多くの人に届けたい」というシンプルな欲求が芽生えていた。
「白山高校が甲子園に行けるということは、全国のどの学校でも甲子園に行ける可能性があるということですからね」
そう言ったのは、青木隆真さん・真朔さん兄弟の父・義則さんだった。私はこの言葉にたどり着くために、白山野球部の取材を続けてきたような気がした。
ライターとして甲子園常連校の取材をしていると、時に自分の高校時代を顧みて思い知らされることがある。「こんなに才能があるヤツらがここまで命懸けで努力していたら、とりたてて才能もなく練習量も中途半端な自分たちが甲子園なんか行けるわけがなかったな……」と。
それでも、今でも夢に見ることがある。あの黒土を踏みしめ、独特なイントネーションのアナウンスで名前を呼ばれ、アルプススタンドの大歓声を受ける自分の姿を。
白山高校が成し遂げたことは、誰もができることではない。だが、誰もが起こしうることでもある。だから私は、そして白山の町は、そして甲子園球場に集まった大観衆は、白山の野球に希望を見たのではないだろうか。
下剋上を夢見るすべての球児の願望を具現化したチーム。それが白山高校だった。
(つづきは書籍で)
書籍情報
『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』
定価:本体1500円+税
10年連続、県大会初戦敗退の弱小校 かつて県内で一番対戦したくない 〝荒れた高校”がまさかの甲子園!?
「一生覚えとけよ。こんだけの人が、お前らを応援してくれてんだぞ」
2018年夏の甲子園に初出場した三重県立白山高校。 白山高校は、いわゆる野球エリート校とは対照的なチーム。 10年連続県大会初戦敗退の弱小校。「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ……。
そんな白山高校がなぜ甲子園に出場できたのか。 そこには、いくつものミラクルと信じられない物語が存在した。
「菊地選手」渾身の一作。 学校も野球部も地元も熱狂! ひと夏の青春ノンフィクション
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『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』
【著者紹介】
菊地高弘
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、ライターとして独立。 『中学野球太郎』誌上では打者として有望中学生投手と真剣勝負する「菊地選手のホームランプロジェクト」を連載中。 著書に『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)、『野球部あるある』シリーズ(「菊地選手」名義/集英社)がある。 Twitterアカウント:@kikuchiplayer