【横尾弘一「プロにつながる社会人野球」】ドラフトに対して個性的な考え方を持って”その日”を待つ――JX-ENEOS・石川駿
ドラフト会議で社会人を指名する場合、球団は当然即戦力として期待している。今年は、どのような即戦力を獲得するのだろうか。プロのスカウトらが注目する一人の社会人選手がいる。JX-ENEOSの石川 駿だ。その石川のドラフトに対する考えは他の選手とは少々違う。
2014/10/12
昨年若獅子賞を獲得、今年もアジア競技大会日本代表に
ドラフト会議が近づいてきた。今年は大学生が71名、高校生は94名がプロ志望届を提出。社会人や独立リーグを加えた中から最大120名の選手が指名される。
すでに有原航平投手(早大)や安樂智大投手(済美高)が1位候補と言われているが、全体的には上位で競合しそうな〝ビッグネーム〟は少ない。
また、社会人では春先に有力候補と見られた選手の何名かが、納得できる成績を収められなかったり、来季の躍進を目論むチームから要請されて残留を決意している。
ただ、そういう年には総合力や実績では目立たなくても、一芸に秀でた玄人好みのタイプが揃い、将来性を見定めるスカウトの手腕がものをいうドラフトになると言っていいだろう。
そんな状況の中、個性的な考えを持って〝その日〟を待っている選手がいる。JX-ENEOSの石川駿選手だ。
明大から入社した昨年は、都市対抗野球大会でチームの連覇に貢献するとともに、3本塁打を放って優秀な新人に与えられる若獅子賞に輝く。さらなる飛躍が期待された今季も、アジア競技大会の日本代表に選出され、16名の野手で唯一全5試合にスタメン出場して銅メダル獲得の原動力となった。
ゆったりした始動から強く正確にインパクトできる打撃、軽快なフットワークと安定したスローイングで、セカンド、サード、ファーストをそつなくこなす守備力とも定評があり、数球団のスカウトが熱い視線を投げかけているという。
それだけの評価を受ければ、プロのユニフォームを纏った自分をイメージし、期待と不安が入り混じった心境になるのが普通だろう。だが、石川は少し違う。
「ドラフト指名されればもちろん嬉しいですし、指名してくださった球団には感謝します。でも、その球団がどれだけ僕を必要としているのか、また、その球団で僕らしくプレーできるのか。そのあたりをじっくり考えることになるでしょうね。生意気な言い方かもしれませんが、100%入団するとは限りません」
そうした思いになったのは、石川の野球人生が大きく関わっている。抜群の身体能力で投手として北大津高へ入学するも、なかなか芽が出ず、内野手に転向してレギュラーをつかんだ。
2年春、3年春と甲子園に出場し、3年時には大会通算600号本塁打をマーク。明大へ進学したが、故障もあって3年間はリーグ戦に出場できない。
それでも、4年春にサードの定位置を確保すると、打率.321、2本塁打13打点を叩き出し、社会人の名門JX-ENEOSから声をかけられる。
「コーチ、OBをはじめ、周りのほとんどの方から『おまえでは無理だ』と言われました(笑)。確かに、歴史と伝統に裏づけられた厳しい練習や規律ある生活に、入社してすぐ『自分には合わない』と感じました。けれど、僕は高校、大学と指導者やチームメイトに恵まれて野球を続けてこられた……」