ドジャース前田、「投げ切る」から「試合を作る」へ。意識変化で投球の精度が向上【小宮山悟の眼】
ロサンゼルスドジャースの前田健太が、メジャーリーガーとしてのキャリアを、「これは以上ない」と言っていいほど、順調にスタートさせた。
2016/05/08
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チェンジアップが有効
具体的な投球内容に触れれば、日本時代と同じように変化球を低めに集めるピッチングに徹している点を評価したい。右打者の外角へ、スライダーをあれだけコントロールできていれば、大量失点するような酷いケースはそうないだろう
前田は日本でプレーしているころから、丁寧な投球で知られてきた。メジャーのマウンドに上がるようになって、その丁寧さが、より増した……つまり投げミスが少なくなったと感じている方もいるようだが、それは彼の中から“完投”という意識がなくなったからではないか。
カープでは、常に「9回まで投げ切る」ことを考えていた。しかし現在は、6回、7回を投げて試合を作ることに集中している。その分、投球の精度が増しているのだと思う。
今後の課題は、いかに中4日のローテーションをこなすか、になるだろう。中4日で投げ続けるというのは本当にタフなこと。前田にとって今年は、そのタフな作業を初めて経験するシーズンとなる。
もちろん、すべての登板試合で完璧な投球を披露することは難しい。思うようなボールを投げられない試合が、きっと何試合かあるはずだ。場合によっては、肩や肘の張りによって、ローテを飛ばすケースも出てくるだろう。気を付けなければならないのは、その時に、それまで保っていた緊張感を途絶えさせないこと。張りつめていたものが切れてしまうと、一気にガタガタっと崩れる危険性はある。
また、コントロールの良さを評価したが、だからといって、前田がすでにメジャーのボールに完全に適応しているわけではない。実際に、ボールが滑るために、すっぽ抜けてしまったシーンが何度かある。
ただ、精密なコントロールをそこまで必要としないチェンジアップを上手に使っている点は見事だ。おそらく本人も、「チェンジアップは左バッターにこんなに有効なんだ」と驚いているに違いない。日本球界には、体勢を崩されながらもバットに当ててくる打者が多いが、メジャーリーガーはしっかりとスイングしてくる。チェンジアップは、これからも有効な武器になるはずだ。
シーズンを通しては、投球回200イニングを目標にすることになるだろう。このペースでいけば、32、33試合に先発して、最低でも15勝はできるだろう。入団時に話題となった巨額な出来高契約のノルマをクリアして、ビッグボーナスを手にしてもらいたい。
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小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。