【ド軍番米国人記者の眼】前田健太が証明した精神面の強さ「打者有利な2球場で、打者をイラつかせた」
ドジャース前田健太は、打者に有利なデンバーでもトロントでそれぞれ異なった組み方で相手打者を翻弄した。
2016/05/10
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対戦相手が前田の真価を実感
トロント(カナダ)――ロサンゼルス・ドジャースに入団し、前田健太は開幕直後から目覚ましい成績でアメリカ国内を魅了している。まずは、14イニング連続無失点と好調な滑り出しを見せ、シーズン3試合を終えただけで、フェルナンド・バレンズエラ、石井一久、野茂英雄らの往年の名投手らと比較され、今シーズンのルーキーの中でも群を抜いた注目を集めた。
ここまでに前田が登板した6試合を振り返ると、数字だけを追えば、後半3試合での成績は、前半3試合に比べて劣る。4月28日には、最初の黒星。データ上では前田が徐々に勢いを落とし、スーパールーキーから、平凡な投手への下降線をたどるのかとヤキモキするファンもいるかもしれない。
もし、そんな人がいれば、「心配無用」と伝えたい。前田の真価は、誰よりも、対戦相手が実感している。実際、直近3試合のうち、2試合で、前田のベストの投球を見ることができたのだ。
その1つ目が、敵地で行われた4月23日のコロラド・ロッキーズ戦だ。前田は6回1/3を投げて、3安打無失点。6回1死までは無安打をキープするも、その後満塁のピンチを迎えたが、打者2人を打ち取り得点は許さなかった。7回途中で降板するまで、失点はなし。この試合は、同じクアーズフィールドで1996年にノーヒットノーランを達成した日本人投手、野茂英雄を彷彿とさせる1戦となった。
だが、当の本人は、ロッキーズに4-1で勝利しても、それほど驚いた様子は見せなかった。この球場で打者に滅多打ちにされた投手は大勢いるが、前田は2012年以来、MLBの球場でも、最も打者に有利なクアーズフィールドでのスタッツを気に留めなかったのかもしれない。昨シーズンのこの球場での得点率は、他の球場に比べると50パーセントも上回るのだが。
ちなみに、選手の中には、不本意なプレーに腹が立ち、その怒りを構わず顔に出すタイプがいる。ダッグアウトで叫んだり暴れたりする姿を、テレビで見ることがある人も多いだろう。ここ、クアーズフィールドでは、得てして投手がそうなってしまう。打者天国のこの球場では、思った通りの投球ができず、悔しさで思わずバットまで投げつけてしまう投手の姿は、よく知られる光景だ。前田は、スタッツ同様、このような通例も気に留めなかったのだろう。
ドジャースの捕手、AJ・エリスが、こうコメントする。
「彼にとって、この環境が初めてだったが、功を奏したのかもしれない。クアーズフィールドで投げたのも初めてだし、ロッキーズ打線と対戦したのも初めてだ。今日のケンタのピッチングは『素晴らしい』以上の出来だった」