【ド軍番米国人記者の眼】「前田は失投を待つしか手はない」とマグワイア氏。右投げでありながら、あの技巧派左腕に匹敵と称賛
開幕から順調な滑り出しを見せている前田健太。なぜメジャーリーグでスムーズに適応できたのか。セントルイス・カージナルスに在籍していた98年に、1シーズン70本塁打を記録し、サンディエゴ・パドレスのベンチコーチを務めるマーク・マグワイア氏に話を聞いた。
2016/05/28
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「前田はトム・グラビンのタイプ」
前田の強さはどこにあるのか。この質問を、往年の名選手にぶつけてみた。
サンディエゴ・パドレスのベンチコーチを務めるマーク・マグワイアだ。セントルイス・カージナルスに在籍していた1998年に、1シーズン70本塁打という驚異の数を記録している彼の通算本塁打数は583本。今もメジャーリーグ歴代10位の記録を保持している。
なぜ、前田から本塁打を打つのが難しいのだろうか?その答えをマグワイア氏はこう語る。
「ホームランを打つというのは、つまりストライクに来る球を打つという意味。前田の場合は、打者が狙うベストポジションにボールが来てくれないということになる」
もちろん、前田は多くのストライクを投げてはいるが、マグワイア氏のポイントは明確だ。打者がホームランを打てる球は、真ん中高めに投げられる、いわば投手にとっては投げ損じの球であり、前田に関しては、このミスが非常に少ないのだ。
前田のストライクは大抵がゾーンのコーナーを突くものであって、打者には打ちにくい。
「コーナーの隅をつける投手というのは、本来左投げであるべきなのだ」とマグワイア氏が続ける。どういう意味だろう。前田が利き腕ではないほうでボールを投げてきたという意味だろうか?
「左投げの投手には、投球スピードは遅いが、制球力があり、様々な変化球を織り交ぜる技巧派が多い」とマグワイア氏。「前田は右投げでありながら、まるで技巧派左腕に匹敵する投球を見せるのだ。トム・グラビンのようなタイプと言える」
メジャー1年目の前田が、素晴らしい名前と比較された。
グラビンといえば、マグワイア氏と同じ時代に活躍した最高の投手であり、2年前に野球殿堂入りを果たしたばかりだ。確かにグラビンの速球のスピードは前田と同じ93、94マイル(時速151キロ)で、制球力に加えて、カーブ、スライダー、チェンジアップと見事な変化球を駆使して打者を翻弄していた。
マグワイア氏のコメントから、今年の前田がドジャースを牽引できる投手である理由が、垣間見えたようだ。ドジャースの中だけではなく、前田は、多くのチームにとっても、異色のタイプなのだ。だからこそ、現役打者だけではなく、かつての本塁打王をもってしても、前田の謎を解くのが難しいのだろう。
「前田は明らかに日本ですばらしい実績を残してきたのだろう。そして、こちらでも、その実力が示されている」とマグワイア氏。さらに「攻撃側からの視点で言えば、彼に関してはひたすら待ち続けるのが良いだろう。コーナーの隅を突く投球にむやみに手を出すと、墓穴を掘るだけだ。難しいが彼が失投するのを待つしか方法はなさそうだ」